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「つくる会」分裂によせて

 「新しい歴史教科書をつくる会」の第92回理事会(2006年6月20日)報告が、会のHPに載っている。その副会長に名を連ねている福地淳という人の「『昭和の戦争』について」という文章が、「西尾幹二のインターネット日録」に載っている。トンデモ話が多いが、それは、基本的なところでの主観主義・主意主義・観念論が原因となっているように思われる。

 「支那事変は、有色人種の優等生大日本帝国の擡頭に我慢できない米英と世界の共産革命を先ず弱い部分である東アジアで成し遂げようとしていた共産ロシア(ソ連)が、支那の軍事独裁者蒋介石を背後から軍事的・政治的・財政的に支援・指導し、さらに支那共産党を介在させて闘わせた言わば代理戦争であった。・・・これらは、謀略情報戦に不得手で、「信義」や「誠実」をモットーとする我々日本人には中々理解できない醜い世界の出来事だった」。 

 米英は、自由や民主主義や平和をモットーとした。しかしそれはただの表看板にすぎなかった。だから、ヴェルサイユ条約という表の看板とは別に、英・仏・日は、中国・アジアなどの利権分割の秘密協定を結んだのである。「信義」と「誠実」のモットーには、顕密という表と裏の二種類がある。秘密協定や真実を知らされていない「信義」と「誠実」をモットーとしていた多くの一般の日本人は、顕教ばかりを教え込まれていたから、英米その他の世界の醜い出来事が理解できなかったのは当然である。

 1910年日韓併合は、韓国側から合併してくれと頼まれたから合併してやったのに、独立運動が起きるのは、誰かが邪悪な意図を持って、裏で陰謀を仕組んでいるに違いない。満州鉄道を爆破して謀略を仕掛けてくるとは、けしからん。満州国は、もともと満州人の故地で、満州人を助けて、満州人を皇帝にして、独立させた民族解放の事業を助けた英雄的行為であったのに、米英や国際連盟が、それを侵略だなどというのは、満州から日本を追い出したい米英の陰謀だ。等々。

 しかし、日韓併合は、朝鮮人組織である「一進会」の対等合邦論を裏切る日本による韓国の併合であったし、張作霖暗殺から、満鉄爆破事件にはじまる満州事変も、関東軍の計画的陰謀事件であった。それを証明したのは、一時「つくる会」にも関わった秦邦彦である。

 「最後にもう一度言おう。満洲事変から支那事変、そして大東亜戦争に関して我が国は侵略戦争の計画は何ももたなかったのである。だから、これらの戦争は我が日本にとっては「独立自衛」を求める以外の目的はなく、侵略戦争との意識は何もない戦争だったのである。モノの見事に誤解に基づく理想世界の拡大を欲した米国と、共産ロシアの二つの謀略勢力に支那大陸の戦場に引き込まれて、結局は押し潰されたと言える」。

 侵略の計画はなかった。だから、これらの戦争は、日本にとっては「独立自衛」という目的しかもっていない。侵略戦争の意識は何もない戦争だった。彼は、侵略戦争かどうかを、その意識があるかどうかではかる。これが福地の主観主義的戦争観の基準である。福地の考えでは、大日本帝国は、大東亜共栄圏・八紘一宇という理想世界の実現・拡大を欲したのだが、それも、「独立自存」意識の一部だったのであろう。これは、「大東亜戦争」を積極的なアジアの民族解放戦争であったとする靖国神社の「遊就館」や小林よしのりの戦争観とは異なっている。

 全体を通して、欧米に対する弁解、抗弁、申し開き、言い訳になっていて、結局は、この人こそ、欧米コンプレックスの自虐史観に陥っているようだ。明治憲法が世界で一番進んだイギリス流の立憲君主制の原理を導入したなどと誇っているのは、彼が価値評価の基準をイギリスに置いているということを意味している。彼は、君主無問責という西欧の歴史的基準のことを云っているのである。無問責な天皇にはそもそも戦争責任自体が存在しないということを云いたいわけであろう。それを、まるで、自分が東京裁判の被告側弁護人として、連合国に向かって、弁明しているといった感じだ。

 それから、彼の見方には、朱子学的な、政治を個人道徳に還元するというような感じもある。統治者の「善なる意志・意識」が、政治の善し悪しを決めるというような。英米の大衆は、真珠湾攻撃で宣戦布告前に卑怯な闇討ちを仕掛けてきた「悪」の帝国日本に報復するという「善なる意識」をもって、対日戦争を戦ったのである。それが、米国の誤解から起きたというのもおかしな話で、米英は、大陸から日本を追い出して、利権を求めていたのに、他方では、理想世界を追求したとするのは、どっちが本当なのか。アメリカは、理想世界を作ることが目的で戦争するつもりだったのか、それとも利権獲得が目的で戦争をするつもりだったのか? 

 結局、福地の文章を見ると、アメリカは、大陸から日本を追い落とした後、蒋介石政府を通じて、利権を追求し続けたので、今度は、その利権追求のじゃまにならないように、日本を完全非武装化し、弱体化することにしたということになる。ところが、まんまと中国共産党とソ連によって、蒋介石政府は大陸から追い出されてしまった。そこで、今度は、日本を再武装化して、朝鮮半島と台湾・日本を、中国・ソ連の南下を防ぐ防波堤とすることにしたということだ。それなら、占領軍の対日政策には、アメリカの理想世界の実現という「善なる意識」はあまり関係ないということになろう。また、自衛隊は、アメリカの利権追求のために作られたアメリカの道具だということになる。

 「つくる会」は、分裂し、新田均グループは別組織をつくった。そして、「つくる会」は、会長に、元日教組の転向組小林正をすえた。小林は、霊感商法・合同結婚式などで、被害者を生んでいる統一協会とつきあいのある人物である。策におぼれたのか、それともそこまで追いつめられたのか、「つくる会」は、金正日と手を結んでいるといわれる統一協会=文鮮明という禁断の木の実に手を出してしまったようである。「つくる会」三重支部は、解散してしまったという。「つくる会」の会員は激減しているという。残りの幹部は、親米色が濃いように見える。副会長福地の東京裁判批判も、見たように、英米の誤解を正すという程度のものにすぎない。敗北主義がその正体である。そんな敗北主義者の幹部を抱えて、「つくる会」を再建するのは難しいだろう。

 なお、「日本会議」の実働部隊の「生長の家」「霊友会」などは、分裂やスキャンダルや内部改革派の登場などで、力が弱りつつある。「生長の家」の現教主は、「左傾化」したともいわれている。保守・右派知識人の間での対立・抗争も激しくなっている。右派・保守派の混迷は続き、混乱は拡大している。

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