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第2章の補論B 競争と独占(2)

 スウィージーは、競争様式が、19世紀とは変わったことを明らかにした。
 
 「いまやわれわれが問わなければならないのは、資本の集積と集中によって競争の形が変わるからといって、古典派やマルクスが認めた競争の働き―資本主義の法則を実現させ強化させる働き―がなくなるのかどうかという点だ。その答えは、断じてそんなことはない、である」。
 
 資本対労働の領域では、その働きはむしろ増大され強化されている。古典派=マルクス派の図式では、資本家は競争のために生産コストをできるだけ切り下げようと努め、利潤を最大限にしようとする。資本家は、労働力をできるだけ安く買い、手に入れた後は、そこから最大限の生産量を搾りとろうとする。「これは、価値、剰余価値、利潤をめぐる法則すべての有効性を保証する必要条件(必ずしも十分条件とはいえないが)なのである」。

 独占段階になっても、資本家たちは競争圧力を受けて、低コストで生産するように強要されるのである。その点について、スウィージーは、ハーバード・ビジネス・スクールのボーダーの『競争戦略』(1980年)から、引用する。ボーダーは、競争圧力に五つあり、「それが「投下資本にたいする収益率を、自由競争による最低収益率に、すなわち経済学者のいう「完全競争」産業で得られる収益水準にまで絶えず押し下げようと作用する」という」。同一産業内で他企業の追い落とすための戦略的早道は三つあるという。①コスト面でのリーダーシップをとること、②製品差別化、③集中生産、の三つである。この中では①が重要だという。
 
 「低コストの立場にいれば、その産業内部の競争がどれほど激しくても、平均以上の収益を手にすることができる。コスト面の優位は、その企業にとって競争者の追い上げを許さぬ武器となる。というのは、低コストさえ維持できれば、競争者が互いに利潤を奪い合った後でもなお、収益を手に入れることができるからである。もっとも低コストの立場でいられれば、強力な買い手があらわれても、その買値の切り下げも、自企業より一歩手前の低コストのとkろで止まるから、なお自企業を守ることができる。さらに低コストであれば、原価上昇に対応する伸縮性に富んでいるから、強大な供給者にも屈することがない。低コストであれば、通常また、規模の経済という点でも、コスト優位という点でも、それらをもたらす要因のおかげて、実質的な他企業の参入にたいする障壁を形成する。最後に、低コストは通常、代替商品が登場した場合でも、その産業内部の競争者に比べ、当該企業を有利な立場におく。競争の圧力でまずはじめに敗れるのは、コスト切り下げにおくれをとった企業であるし、また低コスト化という点で自企業より一歩劣る競争相手が敗れ去るまで、儲けを削って安売り競争を続けるかもしれないが、それまでである。こうしたゆえに、低コストの企業でいられれば、先に述べたような五つの競争要因のどれにたいしても、自企業を守ることができる」。
 
 こうした低コスト化と同時に、大独占企業は、労働力を最大限に搾取する能力も発達している。それを、プレイヴァマンの『労働と独占資本』(1974年)から引用している。
 
 「生産過程の決定的発展が独占資本主義と性格に同じ時期に始まる・・・。科学的管理と、生産をその現代的基礎の上で組織化するための全「運動」は、前世紀末の二十年間にその起源をもっている。労働力の資本への転化をより急速にするための科学の体系的利用を基礎にする科学技術革命もまた・・・同じ時期に始まる。したがってわれわれは、科学的管理と科学技術革命という資本の活動の二つの側面を述べることによって、独占資本の主要な様相のうちの二つについて述べてきたことになる、これら二相は、年代的にも機能的んみも、資本主義発展の新しい段階の一部を成しており、独占資本主義から生じつつ独占資本主義を可能にしているのである」。
 
 マルクスは、すべての階級社会の「決定要素」、すなわち、その社会の基本的な性格を規定するものは、「不払剰余労働が直接生産者から汲み出される特殊の経済的形態(『資本論』第3巻第47章第2節)と考えた。この特殊な形態は、資本主義下では、資本・賃労働関係である。独占資本主義への移行は、この関係を純化し、完全なものとした。不払剰余価値の分配とその利用形態などの副次的な面では、重要な変化が起きた。

 「独占資本主義において競争は形を変え、マルクスが『資本論』第三巻第二篇で分析したような体制全体の平均利潤率へ向う傾向をもたらざずに、独占の状態に一番近い産業が最大の利潤を手にし、小規模競争的な企業が大部分をなす産業でそれが最小となるような利潤率の階層的な形をもたらす。剰余価値が利潤率のメカニズムを通して分配され、また、ある一定の産業において利潤率の高さと企業の数や規模との間に大まかな相関関係がみられることから、次のことがわかる。つまり、集積と集中が進行中であるなら、ますます多くの剰余価値が、比較的小規模で競争的な部門から、より大規模で独占的な部門へと吸いとられる傾向が強いということである。ところが、蓄積に向けられる剰余価値の量は、それを生みだす単位資本の規模や収益性にたいして常に大きくなるため、経済構造全体における独占度が高ければ高いほど、同じ剰余価値総額も、蓄積の度をますます高くさせる傾向をもつことになる」。
 
 これらの点は、今日の格差拡大・固定化を見るのに重要である。例えば、今日の『毎日新聞』経済面の、経済財政諮問会議の二人のメンバーのインタビュー記事はそれを物語っている。伊藤隆敏東大教授は、成長をしっかりとさせるために、改革を継続させると述べている。さらに、女性の育児支援を拡充して、女性と高齢者の労働参加率を高めるとしている。現状では、女性も定年後の高齢者も多くがパート・嘱託などの非正規雇用者であり、低コスト労働力を追加労働力とするということだ。もっと露骨なのは、八代尚宏国際基督教大学教授である。氏は、小泉改革で格差が拡大したといわれる点について訊かれて、「規制改革で、既得権を持っていた人は損をしたかもしれない。だが、新たに職を得た人もいる。所得ゼロの失業者が減少したことを含めて考えれば、格差は拡大していないのではないか」と答えた。非正規雇用の増大については、「非正規雇用が増えたのは経済の長期低迷のためだ。正社員の雇用や所得を守る「緩衝材」として、非正規雇用が機能した。日本では、正社員と非正社員の間に身分の格差が存在している。正社員の雇用、所得保障を緩め、非正社員との壁を低くすることで格差是正を図る」という。正社員の待遇を下げて、格差を是正するというのである。消費財生産部門の第Ⅱ部門をさらに縮小させるわけだ。そして、ニート、フリーター対策は、「大部分は働きたいと思っているのだから、規制緩和で雇用機会を増やすことで吸収すべきだ。子育て女性の再就職を含め、中途採用の機会を保障することが大事になる。年功序列制をやめ、質の悪い正社員を中途採用で置き換えられる仕組みも必要だろう」というものである。驚くべき抽象的な考えであり、空想である。こんな空想者が、経済財政諮問会議の委員だというのだから、まともな政策が出てくるわけがない。ただ、労働コストをできるだけ下げたいという企業の願望を代弁しているだけだ。企業の利益に奉仕するのは、茶坊主のすることであって、経済学者の仕事ではない。

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