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能力差=格差はおかしい

 10日付『読売』社説は、衆議院予算委員会の質疑が始まったことをうけて、「格差是正の具体策を練り上げよ」と呼びかけた。

 しかし、柳沢厚生労働大臣の「女性は子供を産む機械」という発言を、たんなる失言と呼んでいる。柳沢発言の思想性・イデオロギー性を問わないで、失言の一言でかたづけようという『読売』の姿勢には失望した。

 『読売』は、柳沢発言に現れた思想、能力主義・生産力主義イデオロギーを共有していて、その点が、「代表質問での答弁で、首相は、「能力の違いに目をつぶって、結果平等をめざす社会をつくろうとは思わない」とも述べている。当然のことで、これを基本に具体策を練り上げていくべきだ」とする点に見事に現れている。政府の少子化対策の基本的なイデオロギーは、少子化問題を、将来の生産年齢人口・労働力人口の減少問題としてとらえるもので、労働力確保のための、少子化対策をどうするかという点に基本的観点がある。

 衆議院予算委員会で、答弁に立った柳沢厚生労働大臣の発言を聞けば、それは明瞭である。それに対して、管民主党代表代行の「子供の生産性が低い云々」の発言を批判する自民党議員の質問への高市早苗大臣の回答は、出産・生命の尊厳、崇高さ、リスクの高さを強調し、社会が子育てを支えるような雰囲気作りが必要だというもので、公明党創価学会同様のヒューマニズムにたつものであった。しかし、それは、具体性に欠けている。社会的雰囲気の醸成なるものを訴えるだけでは、どうしようもない。出産の尊厳性・崇高さ・危険性等々が希薄化したのには、医療制度の問題も存在する。今日のシステム化された出産医療のあり方にメスを入れずに、どうやって、それらを社会的に取り戻すことができるだろうか。それに、出産を高く持ち上げれば、今度は、出産できない、あるいは出産しないという女性の生き方をひくめて、「不健全」とする価値観を押しつけることになりはしないか。自民党議員の質問は、管民主党代表代行よりも、それに答弁した出産していない女性である高市早苗大臣を傷つけたのではないだろうか?
 
 首相が、能力による格差は容認し、結果平等を目指さないと述べたことを『読売』は当然だとした。日本経団連の「御手洗ビジョン」もまた結果平等を否定している。しかし、能力に違いがあるということとその結果を合理的に結びつけるものはあるのだろうか? 例えば、百メートル走を早く走れる人とマラソンを早く走れる人との収入格差は、能力の違いの結果なのか? 鉄鋼メーカーの社員と自動車ディーラーの社員との収入格差は、どのような能力の違いによるものなのだろうか? 前者は、国際競争力の高い鉄の生産技術や製造能力が主であり、後者は、販売力が基本である。つまり範囲や条件を限定しなければ、能力は比較できないので、それを一般的に合理的な基準とすることはできないということである。したがって、能力をもとに合理的な結果を計ったり、決定することはできないということである。そこで、これまで経営者たちは、いろいろな手段を使って、それを決めようとしたのであるが、うまくいかなかった。様々な力の総合産物である成果に対して、それを個人能力に帰することは不可能だったわけである。そこで成果主義の見直しが今進められているわけである。ということは、その基礎にある能力主義もまた再審にふされているということである。

 それになのに、『読売』、日経連「御手洗ビジョン」、阿倍政権、柳沢厚生労働大臣たちは、後ろ向きに、成果主義、能力主義、生産力主義、等々にしがみついているわけである。他方では、『読売』は、格差是正が必要であることを訴えているのだが、能力主義を基本にそれをしろというのだから、やりようがない方策を求めているのである。格差是正には、所得再配分策は一定の効果があることは間違いない。しかしその手は、能力主義の観点からは使えない。所得再分配策は、「能力に応じて」ではなく「必要に応じて」分配するというのが基本だからである。『読売』的な考えでやってきた英米で、格差是正が進んだかどうかを見れば、それほどの効果はなく、格差は全体としては拡大しているというのが現実である。「能力に応じて」か「必要に応じて」か、格差是正の基本的な考えを後者におかないと、格差是正は進まないだろう。英米いずれも、格差社会化は、左翼を復活させる基盤を作った。『読売』の言うとおりにしたとすれば、それはそれで、左翼にとってプラスとなるだろう。  

  2月10日付・読売社説(2)
 [衆院予算委]「格差是正の具体策を練り上げよ」

 衆院予算委員会で基本的質疑が始まった。柳沢厚生労働相の失言で、混迷が続いていた国会は、ようやく本予算審議が軌道に乗った形だ。

 質疑での重要な論点の一つは格差問題だった。所得の格差から雇用の格差、企業間の格差、地域間の格差まで、それぞれ「格差」は、どこまで広がっているのか、低所得者やフリーター対策に何がもっとも有効か――。

 与野党は論戦を通じて、格差の実情と、格差是正のための具体的政策を明らかにしていかなければならない。

 格差論争は、昨年の通常国会でもあった。小泉構造改革が、国民の間に新たな「格差」をもたらしたとして、野党が追及した。だが、小泉首相は、「言われているほどの格差はない」とかわして論戦はかみあわなかった。

 自民党の丹羽総務会長は、予算委質疑で、政府の格差に対する「現状認識」をただした。大田経済財政相は、「とくに20代、30代で賃金格差が拡大している」と、格差の拡大を認めた。

 経済学者の分析でも、所得格差の拡大を強調する説もあれば、それほど問題視する必要はない、という説もある。小沢民主党代表は、「日本は世界で最も格差のある国になった」と指摘したが、塩崎官房長官はこれを否定し、その「根拠」を示すよう求めている。

 これでは、国民は戸惑うばかりだ。格差の実態について、与野党は、もっと論議を深めていく必要がある。

 安倍首相は、「景気の回復」と「成長戦略の前進」が、格差是正のための基礎になるとの認識を示した。経済が拡大することにより、非正規雇用が減り、正規雇用が増えることなどを例示した。

 だが、ワーキングプア(働く貧困層)対策や最低賃金法改正の内容などについては、十分な説明がなかった。

 代表質問での答弁で、首相は、「能力の違いに目をつぶって、結果平等をめざす社会をつくろうとは思わない」とも述べている。当然のことで、これを基本に具体策を練り上げていくべきだ。

 政府は、格差対策にあたる「成長力底上げ戦略構想チーム」を始動させた。だが、大田経済財政相は、「人材能力の開発」「公的扶助を受けている人のうち、就労を希望する人の就労支援」「中小企業の生産性の向上」など3項目を挙げるにとどまった。政策の中身がまだまだ生煮えだ。

 「格差是正」ばかりを強調する民主党への対抗を急ぐ余り、拙速で実効の乏しい政策になっては意味がない。じっくりと腰を据えて取り組むべきだ。

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