靖国新資料 『産経』の言い訳の見苦しさ
A級・B級戦犯合祀をめぐる新資料が公表されることになったことを受けて、新聞各紙が社説で取り上げている。
憲法・安保などの問題でことごとく対立してきた『朝日』と『読売』は、めずらしく戦没者追悼施設の建設すべきだとする点で意見が一致している。
それに対して、『産経』は、ただ当時の民意の反映として読むべきだと主張している。
「公表された新資料によれば、戦犯合祀に関する厚生省と靖国神社の協議が始まったのは、昭和33年からだ。戦犯の赦免を願う当時の民意を受けた協議だったと思われる]といい、この協議が、戦犯赦免を願う当時の民意を反映していると推定している。
「サンフランシスコ講和条約発効(27年4月)後、戦犯赦免運動が全国に広がり、署名は4000万人に達した。28年8月、衆院で「戦争犯罪による受刑者の赦免に関する決議」が全会一致で採択された。こうした国民世論を受け、政府は関係各国の同意を得たうえで、死刑を免れたA級戦犯とBC級戦犯を33年までに釈放した。こうした戦後の原風景を思い起こしたい」というのである。
しかし、戦犯受刑者の赦免は、免罪とは違う。この当時、戦犯赦免を求めた国民世論は、赦免を求めたのであって、無罪放免を求めたわけではない。つまり、東京裁判その他の戦犯法廷の判決自体を覆すことを求めたものではない。したがって、それが、ただちに、靖国合祀を容認したというわけではなく、そのことも、合祀過程が、旧厚生省と靖国神社側の間で秘密裏に進められた原因になっていると思われる。「Internet Zone::WordPressでBlog生活」http://ratio.sakura.ne.jp/archives/2005/05/27101755.php/trackbacには、A級戦犯は、減刑されたのであり、赦免はされていないという政府答弁が載っている。
もっぱら、占領体制の厳しさを理由にして、あれもこれも占領下では仕方がなかったと言い訳ばかりしている保守派や右派が多いのであるが、この『産経』の社説もその類である。ついこの前まで、新聞は、「玉砕」「本土決戦」を呼号してきたのであり、占領体制に対しても「玉砕」覚悟で、言うべきを言うことはできたのである。それをしもせずに、自分たちの身の安全が確保されたと確認してから、ようやく、東京裁判は間違いだの憲法は押しつけだのとおおっぴらに叫び始めたのである。なにをか況やである。
『産経』は言い訳がましく、見苦しい。
【主張】靖国新資料 民意踏まえて読み解こう(『産経新聞』2007/03/30)
靖国神社への戦犯合祀(ごうし)に関する詳細な資料が国立国会図書館によって公表された。国と靖国神社が協力して合祀を進めていたことを改めて裏付ける貴重な記録である。
特に興味深いのは、昭和30年代から40年代前半にかけ、東京裁判で裁かれたいわゆる「A級戦犯」や、外地で処刑された「BC級戦犯」らの合祀について、厚生省と靖国神社側が何度も協議を行い、慎重に合祀を決定していた事実である。
しかも、目立たないように、と双方の担当者が戦犯に対する当時の内外の世論にいじらしいほど気を使いながら協議していた様子がうかがえる。
識者の間には、国が神社の合祀に関与していたことは現行憲法の政教分離の原則に反するとの指摘もある。しかし、合祀の前提となる戦犯も含めて200万人にのぼる第二次大戦の戦没者を特定する作業は、戦後に旧陸海軍省の業務を引き継いだ厚生省の援護担当者の協力なしには不可能である。
判例では、津地鎮祭訴訟の最高裁判決(昭和52年)以降、国家と宗教のかかわりを一定限度容認する緩やかな政教分離解釈が定着している。憲法が厚生省の合祀協力業務まで禁じているとはいえない。国のために戦死した国民の慰霊のもとになる合祀に国が協力したのは、当然のことだ。
公表された新資料によれば、戦犯合祀に関する厚生省と靖国神社の協議が始まったのは、昭和33年からだ。戦犯の赦免を願う当時の民意を受けた協議だったと思われる。
サンフランシスコ講和条約発効(27年4月)後、戦犯赦免運動が全国に広がり、署名は4000万人に達した。28年8月、衆院で「戦争犯罪による受刑者の赦免に関する決議」が全会一致で採択された。こうした国民世論を受け、政府は関係各国の同意を得たうえで、死刑を免れたA級戦犯とBC級戦犯を33年までに釈放した。こうした戦後の原風景を思い起こしたい。
新資料では、戦前・戦中の合祀基準や、終戦後、空襲などで亡くなった一般国民の合祀が検討されたことも明らかになった。
大原康男・国学院大教授が本紙で指摘しているように、「この時代の国民の心意に目配りして」新資料を読み解くべきである。
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