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「「軍命」証言次々/一フィートの会抗議」(『沖縄タイムス』)記事によせて

 4月20日の衆議院教育特別委員会で質問にたった民主党管直人議員は、先の教科書検定で、沖縄戦での住民集団自決に軍が関与したという記述に、文科省が検定意見をつけて、それにしたがって、各社の教科書で、日本軍の関与がなかったかのような記述に変更されたことを取り上げた。

 管氏は、沖縄戦集団自決に関わって、赤松元渡嘉敷島守備隊長の遺族と座間味島守備隊長梅澤裕元少佐が、『沖縄ノート』を著わした大江健三郎氏やそれを出版した岩波書店などを相手に起こした名誉毀損を争う裁判で、原告側を支援している「新しい歴史教科書をつくる会」副会長で、自由主義史観研究会代表の藤岡信勝氏と総理が会って、この件について話をしたかどうかと尋ねた。すると、安部総理は、気色ばんで、そんなことは、教科書検定とは何の関係もないと答弁を拒んだ。その後、総理就任以後は、会っていないと答えたが、明らかに、過剰反応が見られた。それは、テーマが、今沖縄で闘われている参議院選挙に影響が出かねないものであったためであろう。管氏に対して、沖縄参議院補欠選挙に絡めた質問ではないかと声を荒げるシーンがあったが、管氏は、沖縄の人々のことに関わる問題を選挙戦の焦点として取り上げるのは当然だと切り返した。そのとおりである。沖縄戦で深い傷を負い、犠牲者を多く出した沖縄で、こうしたテーマについて、政党がどう考えているのかを知ることは、重要なことである。裁判の当事者とそれを支援する藤岡信勝らは、下のような沖縄戦体験者の証言を否定して、かれらを嘘つきにしようとしているのである。故赤松元隊長や梅澤元少佐という元日本軍人の名誉を回復させるかわりに、軍が関与した集団自決の証言者の名誉を奪おうとしているのである。

 この問題について、秦泰彦氏は、「90歳の梅沢元少佐(と赤松氏の遺族)が「汚名」をそそごうと、作家の大江健三郎氏(と岩波書店)を相手どって平成17年夏、謝罪と著書『沖縄ノート』の出版差し止めなどを求め大阪地裁へ提訴したとき、私はついでに沈黙を守ればよいのにと思わぬでもなかった」(4月14日産経新聞『正論』)として、あくまでも住民救済のための方便として、軍命令を認めて、泥をかぶったはずの両元守備隊長らが、最後は、自分のことを優先したことにいったんは失望したようである。ところが、この時点で、『沖縄ノート』を読んでいなかった秦氏は、実際にこれを読んでみると、両元守備隊長を戦争犯罪人呼ばわりするなど人権侵害的記述があって、考えを変え、訴訟を起こし、出版停止を求めたのは当然だと判断し、そればかりか、両元守備隊長は、当時の軍民一体、「一億火の玉玉砕」「生きて俘虜の辱めを受けず」「軍の足手まといになるな」などの戦時の教えに反対して、逃げて生き延びよと捕虜になることも容認するという反体制的なことを住民に指示したことを、立派な行為だと褒め称えている。

 梅澤元少佐の方は、もはや日本の敗戦はまぬがれないと悟っていたから、助役らが、集団自決の方法を聞きに来た時に、まさか戦国時代のようなことを住民が言うとは思わなかったという。つまり、元守備隊長らは、軍政として島のトップの位置にあったが、住民心理を理解できていなかったということだ。それから、敗戦は間違いない、無駄死にせずに、降伏して捕虜になれと教えずに、島の反対側の方に逃げろと言うだけにしたのはなぜだろうか? 食料は、もともと村民のためというよりも、軍のために蓄えられていたのだろうし、それは米軍上陸が明日にも迫る中では、もはや軍には必要のないものであったろう。それに、圧倒的に優勢な米軍は、上陸すれば、やがて島全体の掃討を行うことは明らかであるし、島の反対側に隠れても、まもなく住民が見つかることは明らかである。自分たちを守るはずの守備隊が全滅してしまい、「鬼畜」が武器を持って、迫ってきている時に、住民たちは、白旗を掲げて、冷静に投降できるだろうか? 

 渡嘉敷島での赤松元守備隊長による集団自決の直接的命令を否定する本を書いた曾野綾子氏は、神と個、キリスト教の信仰を持つ人で、カトリックの信徒である。沖縄のしかも島のような共同体の掟や濃密な人間関係が重層している世界とは正反対にいる人だ。そこは、時代的にも、空間的にも、集団的世界、共同体的世界である。近代的な意味での個人がどうとかいうことは問題ではないのである。曾野氏の文章のいくつかを読んだが、そこには、個人と神との個的な関係はあるが、集団的なものに共感を持っていないことがわかる。

 秦氏の方は無内容である。それは、「「自決するな。生きのびなさい」と指示したのに、米軍の砲火でパニックに陥り死を選んだ島民を思いやって「汚名」を甘受した2人に比し、「現存する日本人ノーベル文学賞作家」の醜悪な心事はきわだつ」として、両元守備隊長の未熟さを示す事態を逆に持ち上げていることで明らかである。それは、「法廷記録から浮かびあがってきたのは赤松、梅沢両氏のすぐれた人間性であった。25歳、27歳の若さなのに彼らは絶望的な戦況下、数百人の部下と島民をまとめ、冷静、沈着な判断力で終戦までの5カ月をしのいだ」と述べていることにも明らかである。ここには、25歳、27歳という若さ故の未熟さによって、「生きのびなさい」と言えば、そのとおりになるとしか思えなかったという判断の甘さが現れているのである。それがどうしてかれらの人間性のすばらしさを表しているというのか? 頭がひっくり返っているとしか思えない。ベテランなら、もっと、実効性のある判断を下し、それを実行したに違いないのだ。人間的な言葉をはきさえすれば、人間性が高いということにはならないのである。住民心理を理解できなかった若き島の最高責任者の未熟さが、はっきりと自身の口から語られているというのに、「すぐれた人間性」などと持ち上げるのか? 特別な意図を持たずには言えないことだ。 

 「軍命」証言次々/一フィートの会抗議(『沖縄タイムス』07年4月20日)

 教科書検定で高校教科書から沖縄戦の「集団自決」への軍の強制が削除された問題で、沖縄戦記録フィルム一フィート運動の会(福地曠昭代表)は十九日夜、那覇市内で「『集団自決(集団死)』の教科書検定に対する抗議集会」を開いた。渡嘉敷村で「集団自決」を体験した金城重明さん(78)は「住民が自発的に死んだというのはうそだ」と証言。参加者からも、本島南部で自決用に手りゅう弾を渡されたという発言があった。日本軍の関与を消し去った検定結果が沖縄戦の実相を歪曲すると批判が相次いだ。
 一フィート運動の会の映画「沖縄戦の証言」上映の後、金城さんと座間味村の体験者、與儀九英さん(78)が証言した。

 金城さんは「米軍の上陸後、天皇の軍隊は、住民が所有する畑から食糧を取っただけで殺害するなど、島の一木一葉まで完全に支配下に置いた。住民が『自決』したのに、軍命がなかったというのは真っ赤なうそだ」と語気を強めた。米軍上陸一週間前に、厳重に保管していた手りゅう弾を住民に配布したことなどを挙げ「集団死は軍の命令だった」と話した。

 與儀さんは、慶留間島で米軍上陸前の二月八日の大詔奉戴日に海上挺進第二戦隊長が区長を通じ「敵上陸は目前、上陸の暁には玉砕せよ」と訓示したと証言。教科書検定で、文科省が軍強制の削除理由に「集団自決」訴訟を挙げたことに触れ、「裁判に皆の体験や知っている情報を寄せることが大事だ」と呼び掛けた。

 会場から発言した瑞慶覧長方さん(72)は本島南部を避難中に「捕虜になるのは恥だ、自決せよと、防衛隊から手りゅう弾を渡された」と証言。軍関与なしに住民が「集団自決」に追い込まれることはないとし、「歴史歪曲に黙ってはならない」と批判した。

 集会には約七十人が参加。検定意見の撤回を求める抗議文が採択され、文部科学省に送られる。

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