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無意味な少年法改定を評価する『読売』の愚

 少年法改正案が可決成立したことについて書かれた『読売新聞』社説と『毎日新聞』の記事がある。

 両者は、かなり異なっている。

 まず、『読売』社説の方は、「長崎市で12歳の男子中学生が4歳の男児を殺害する事件が4年前にあった。翌年、長崎県佐世保市で11歳の女児が同級生を刺殺した。社会に衝撃を与えた事件が相次いだことを受けた改正である。当然の対応だろう」と評価している。しかし、そうはいっても全体のトーンは、弱々しいもので、自信なさげである。

 この間、世間においては、とりたてて少年法改定を求める声は、それほど聞こえてこず、いつの間にか、法改定が進んでいたという感じである。

 第二に、厳罰化が少年犯罪の抑止につながらないということは、厳罰化を推進した側からも言われていることで、今更なんのための法改定なのか意義がわかりにくい。

 『読売』社説では、「触法少年事件の調査規定がなかったため、事情聴取の要請や証拠品の提出を拒まれることもあった。これでは真相解明ができず、再発防止にもつながらない。家庭裁判所からも、調査資料の乏しさを指摘する意見が出ていた」というのだが、そもそもこういう年齢(小学校高学年)の児童に対して、警察が真実を明らかにするということには無理がある。これまで、ほとんど相手にしたことのない対象だからである。

 そのことは、『読売』も審議の過程から、わかっていて、「年少であれば判断力に欠ける場合もある。警察は少年心理など専門職員の活用をさらに進めるなど、調査の信頼性を高めるよう努めてもらいたい」と注文を付けている。

 さらに、「少年院への収容も、事件の重大さや少年の心身の状況から判断することだ。更生のために、きちんとした矯正教育を施すのは、年齢を問わない」と一般論に逃げている。こんな当たり前のことを言う理由は、「児童自立支援施設は児童福祉法に基づく施設で、家庭的雰囲気の中で福祉的に処遇することを基本としている。家出少年や児童虐待の被害者も入る開放的施設だ。重大事件を起こした触法少年を収容することが適切か、極めて疑問だ」からだという。

 それにふさわしいのは、 少年院だと言うのだが、「法務省は、小学生を対象とした、精神医療面を含めた新たな矯正プログラムを少年院に導入するという。ケースによっては保護者の指導も欠かせない」という具合に、この社説自身が、現行の少年院が矯正施設として十分ではなく、改良された少年院という未来のことを例に出している有様だ。今、矯正面で問題があり、改善されなければならないという不十分な矯正施設である少年院に、小学校高学年の子どもを送り込むことが、適切でないことは明らかである。

 これらの問題があることを承知しながら、なお、少年法改定に、単純に評価を示すのは、なぜだろうか。とても疑問だ。効果も未知数なら、体制もできていない。だが、法改定には賛成だという。しかも、「おおむね12歳程度」までの触法少年は数が少なく、少年院送致になるのはごくわずかだという。

 警察が、犯人をでっち上げることがままあることは、この間、『読売』でも報道してきたはずだ。その警察が、少年心理の理解も不十分なまま強制捜査し取り調べを行ったところで、真実に近づけられるのかどうかも大いに疑問だ。

 触法少年の罪の自覚は、ずいぶん後、成長するに従って形成されることが多いのではないだろうか? それを、大人並みの、法規範意識と判断を求めるというのは、無理がある。「おおむね12歳程度」の子どもは、法規範囲意識と判断力では、大人と同じレベルにあるとか、厳罰化すれば急速にそうなるとか、そんな空想的なことを『読売』は信じているのだろうか? ありえないことだ。おかしくなっているのは、この社説を書いた大人の方である。だいたい、この社説を書いた大人や法律を改定した大人たちは、自分の少年時代に、後に身につけたような法規範意識と判断力と同じレベルをすでに持っていたとでも言うのだろうか? ありえない。こんなことは、意味がわからないし、つまらぬ時間つぶしを国会でやっているとしか思えない。

 『読売』は、タイトルとは全く逆に空想的に対応しているとしか思えない。それについでのように、少年非行問題を取り上げているのだが、これはまた上記のケースと違うことは明らかで、だから『読売』も、家庭環境その他のことについて書いているのだが、これらが、少年犯罪というカテゴリーで一括りにされているのである。

 最後は、「調査規定を削除しただけでは、事態は改善されない。今回の改正で事が足りたとせず、地域や学校を含めた非行少年の対策を真剣に考えるべきだ」と非行対策になっている。重大事件を起こした少年犯罪の問題と非行少年の問題が、ごっちゃになっている。これでは、非行とは何であるかもわからないままに、論じているわけで、結局は、意味不明の混乱に終わっている。なんでも警察にやらせれば、問題が解決すると言わんばかりだが、そんな単純なことですむような問題の方がこの世にははるかにすくないということすらわからないとしたら、『読売』の愚かさ、思慮のなさはかなり深刻だ。

  改正少年法:厳罰化加速に賛否 警察調査権、事実誤認の恐れも(5月26日『毎日新聞』)

 少年院送致の下限年齢を「おおむね12歳」に引き下げ、警察による捜索などの調査権を認める改正少年法が25日、参院本会議で可決・成立した。神戸連続児童殺傷事件(97年)を機に、刑事罰の対象年齢を16歳以上から14歳以上とした前回改正から7年。「厳罰化」がさらに進む中で、さまざまな問題点が指摘されている。【坂本高志、川名壮志】

 「罪にあった償いをしてほしい。14歳未満でも同じ。厳罰化ではなくて適正化なのです」。17日の参院法務委員会。参考人として出席した「少年犯罪被害当事者の会」の武るり子代表はこう強調し、改正案を評価した。これに対し、児童自立支援施設・国立武蔵野学院の徳地昭男元院長は「14歳未満の子には、強制より共生の経験が大切。少年院ではなく、支援施設が適切だ」と求めた。

 今回の改正で、小学5、6年でも少年院送致が可能になる。「正直、小学生は支援施設で受け入れてほしい」と明かす少年院関係者もいるが、家裁が実際に14歳未満に少年院送致を選択するケースは、重大な殺人事件など極めて限定されたケースとみられ、法務省も「あっても年間で数件程度だろう」と予測する。

 むしろ問題は、刑事責任を問えない14歳未満の少年(触法少年)に対する警察当局による調査権限だ。衆、参両院での議論は、少年院送致の下限年齢に多くが費やされたが「警察の関与の方が影響は大きい」と指摘する関係者は多い。

 これまで警察には、少年の自宅から証拠品などを押収(強制調査)したり、呼び出して質問する(任意調査)といった権限がなく「事実解明が不十分になる」と指摘されてきた。今回の権限の明記は、こうした声を受けたものだ。

 少年捜査が長い警察幹部は一例として「未解決の放火事件で、ある少年が関与しているとの情報を得た時」を挙げる。多くの親が「なぜウチの子を」と反発するだろうが「調査権に基づいてお話を」と説得する後ろ盾ができる、と言う。

 ある児童相談所長経験者は「警察の証拠品押収は客観的事実を明らかにするのに役立つ」と考えているが、任意調査には否定的だ。「特に12歳程度の子は事実や動機を説明する力に乏しく、強い大人にはウソでも迎合する。相当慎重にやらないと、事実誤認などの危険もある」と話す。

 少年法に詳しい斉藤豊治・元東北大教授は「触法少年への任意調査を認めるなら、録画や専門家の立ち会いなど可視化が必要なはずだ。こうした冷静な議論を十分行わず、法を作り替えてしまった」と批判している。

 少年法改正 現実を直視した対応が大事だ(2007年5月26日『読売新聞』社説)

 少年非行の現実を直視した適切な対応が必要である。

 政府が最初に国会に提出してから2年余りを経て、ようやく改正少年法が成立した。

 14歳未満の少年が殺人や強盗など刑罰に触れる行為をしても、罪に問われない。この、いわゆる触法少年の事件について、本人や保護者を呼び出して質問し、捜索や押収もできるなど、警察の調査権限を明確にした。

 触法少年は少年院に収容することができなかったが、「おおむね12歳以上」と下限を設けて収容可能とした。

 長崎市で12歳の男子中学生が4歳の男児を殺害する事件が4年前にあった。翌年、長崎県佐世保市で11歳の女児が同級生を刺殺した。社会に衝撃を与えた事件が相次いだことを受けた改正である。当然の対応だろう。

 民主党や日本弁護士連合会は「警察権限の強化だ」「14歳未満は少年院でなく児童自立支援施設で立ち直りを援助すべきだ」とし、改正に反対してきた。

 しかし、触法少年事件の調査規定がなかったため、事情聴取の要請や証拠品の提出を拒まれることもあった。これでは真相解明ができず、再発防止にもつながらない。家庭裁判所からも、調査資料の乏しさを指摘する意見が出ていた。

 年少であれば判断力に欠ける場合もある。警察は少年心理など専門職員の活用をさらに進めるなど、調査の信頼性を高めるよう努めてもらいたい。

 少年院への収容も、事件の重大さや少年の心身の状況から判断することだ。更生のために、きちんとした矯正教育を施すのは、年齢を問わない。

 児童自立支援施設は児童福祉法に基づく施設で、家庭的雰囲気の中で福祉的に処遇することを基本としている。家出少年や児童虐待の被害者も入る開放的施設だ。重大事件を起こした触法少年を収容することが適切か、極めて疑問だ。

 法務省は、小学生を対象とした、精神医療面を含めた新たな矯正プログラムを少年院に導入するという。ケースによっては保護者の指導も欠かせない。

 暴力団員と付き合い風俗店に出入りするなど、将来、犯罪者に転落しかねない虞犯(ぐはん)少年の警察による調査規定は、「虞犯少年の範囲があいまい」などという意見が出て、政府案から削除された。

 虞犯少年には家庭環境が劣悪で、周囲から見放された少年が多い。不良グループを抜けられない少年もいる。

 調査規定を削除しただけでは、事態は改善されない。今回の改正で事が足りたとせず、地域や学校を含めた非行少年の対策を真剣に考えるべきだ。

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コメント

少年法厳罰化という話になると必ず出てくるのが、統計では犯罪は減少している。
死刑廃止は世界の趨勢、冤罪、更生と続く。
戦後から現在までの少年犯罪の表向きの検挙数は減少するのは当たり前。
集団暴力は自殺や殺害になってはじめて表に出る。
大津のいじめ自殺事件は自殺にまでなったので表に出たが、一般には被害者が泣き寝入りしている。
時代とともに集団暴力は寧ろ拡大、凶悪化、激化していると云う事。
この事を知らないと少年法は語れないと云う事。
教師でさえ暴力の対象になっているので、見て見ぬ振りをしている。
だから、どこの学校でも事件が起こると、『いじめの認識は無かった』などと隠蔽する。

少年法厳罰化と死刑廃止議論とは別だが、先進国では死刑廃止が世の趨勢であると左派の方々が口を揃えて云う。
外国がそうなら、日本も真似をしなければならない理由も根拠もありません。
死刑のほとんどは中国とアメリカであり、日本の死刑執行は極めて少ないのが事実です。

冤罪という言葉をよく使う危険思想の方がいる。
無実の人が罪人扱いされるのは事実誤認と言わなければならない。
本当は殺人なのに、傷害致死になったというのも事実誤認である。
冤罪という言葉を使う人は、犯罪の加害者だけは事実誤認があってはならないが、被害者側は無視をしますと言っているわけだ。
殺人を軽犯罪にしてもかまわないという危険思想の方の使う決まり言葉だという事。

更生というのは簡単に言うと、まともに生きるということ
人を殺してもまともに生きるならそれでいいですという主張。
こんな危険思想を受け入れる方がおかしい。

強盗、殺人、傷害、集団暴行、性犯罪、等々
犯罪加害者の30%程度は再犯を繰り返している。

要するに、限られた一部の人が犯罪を繰り返しているのというのが事実だ。
だから少年法厳罰化は遅いぐらいだ。

先進国である日本だからこそ厳罰化するのではないか。

投稿: 通行人 | 2012年9月 3日 (月) 19時36分

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