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櫻井よし子さんのおかしな日中関係論

 櫻井よし子さんというのは、どうも、人の神経を逆なでするのが得意な人のようだ。

 元紅衛兵の富豪で日本に留学して以来の友人だという中国人との会話が紹介されている。

 この富豪は、留学当時は、日本の環境に不満で、別の国に移住して、国籍を取得し、その後、北京・香港でビジネスに成功したのだという。

 彼らは、中国に進出して結局は失敗したヤオハンを悪し様に非難するので、一時、交流が途絶えたという。

 櫻井氏は、「経営者としての和田氏の判断ミスも当然ある。しかし、中国人相手の取引の難しさは、いまや常識である。法律も約束事も一顧だにしない理不尽極まる彼らによって、文字どおり身ぐるみ剥がされたのがヤオハンである。中国人の親切さとともにあこぎさも見聞してきた私は、和田氏らに対して気の毒だという想いを捨て切れない」と言うのである。

 中国人は、「法律も約束事も一顧だにしない理不尽極まる」奴らだというのが、櫻井氏の見方である。ヤオハンは、そんな連中に「身ぐるみ剥がされた」犠牲者だというのである。中国人は親切であると同時にあこぎであると櫻井氏は言う。

 しかし、日本人の中にも、あこぎな連中はいるわけで、年金記録をわからなくしてしまった社会保険庁から、牛肉と偽って、豚肉・鶏肉・ラム肉を混ぜたコロッケを売っていた会社もあれば、温泉をくみ上げる際に出るメタンガスの危険性を意識すらしていなかった温泉会社もあれば、広大な土地建物の固定資産税を一部しか支払っていなかった元町長の自民党議員もいれば、女子学生にセクハラする大学教授もいれば、ちかんにあっている女性を助けるどころかそれに加わった男もいれば、・・・。と、つい数日の間に日本人が起こしたあこぎな事件が、次々と発覚しているのである。

 この夫妻は、日本定住を決め、「今、東京の海を見晴らす高層億ションを探している」という。そして、「中国では、どんなに資産を蓄えても、どんなに権力を手に入れても、環境汚染から逃れることはできない。大富豪も共産党幹部も、汚染された空気と汚染された水で暮らさなければならない。現在の中国での成功は意味がないのです」と言うのである。一体かれらは、どうやって、富豪になったのだろうか? 空気を汚染する煙を吐き出し、水を汚す廃液を垂れ流す工場や企業に投資したからではないのか? あるいは、そうした工場から仕入れた商品を売ることで儲けだのではないだろうか? そのことに、この富豪は、無関係で、責任はないと言うつもりだろうか? そして、櫻井氏は、どうして、そのことを指摘するなり聞くなりしないのだろう? 

 こういうことを今中国であくせくと富豪の持つ会社で汗水流して働いている労働者や東京の海を見晴らす高層億ションなどけっして手が届かず、「汚染された空気と汚染された水でくらさなければならない」多数の人々は、どう感じるだろうか? まず、カチンとくるに違いない。もちろん、日本で、「働けど働けどわが暮らし楽にならずじっと手を見る」(石川啄木)という状態にある人々が聞いても、腹の立つ話であろう。

 さらに富豪氏は、「結局、日本がいちばんいい。どこも本当に清潔。食べ物も安全。社会も安全。第一、人間が優しいですよ」という。しかし、カネさえあれば、世界中どこに行っても、親切なサービスを受けられるのである。日本が、こうなるまでには、水俣病やイタイイタイ病、ヘドロ、光化学スモッグ、排ガス問題などの公害被害者を出し、それらの被害者などの闘いがあったのである。それらに一言も触れず、成果だけを横取りして、日本は清潔だ、安全だ、人間が優しいなどというのは、おかしい。

 富豪氏は、今回初めて、「日本も悪いが、中国人も悪い」と言ったという。それを櫻井氏は、「政権の中枢に近く、一般の中国人にとっては夢のような生活をしている富豪、権力者、高官たちのなかには、じつは中国の抱える矛盾も問題も非常に明晰に理解し、日本こそが理想の国だと考える人が少なくない。日本を高く評価してはいても決して口にしなかったその認識を、彼らはようやく口にするようになったのだ」というのである。

 中国の抱える矛盾に苦しんで、必死に闘っているのは、農民や労働者たちであって、富豪、権力者、高官のなかの日本を理想と考える人たちなどではない。富豪・権力者・高官たちは、生活の場から離れることが難しいこれらの人々の闘いを支持するなり助けるなりすることもなく、むしろかれらを弾圧する側にいる連中だ。かれらは、自分たちだけは安全で快適に生活できるところに引っ越して、高層マンションから下界を見下ろし安全で高級な無農薬食品などの食事をたしなみながら、あれこれと評論しているだけだ。櫻井氏も、そうしたお気楽な上流階級の一員として、日本なるものを楽しく空想で理想的に描いているにすぎないのである。

 ある留学生は、「中国にいたときは、日本は軍国主義の国だと頭から信じていた。しかし、来日して驚いたのは、何週間か過ぎても、軍人らしき人物を一人も見かけなかったことだ。靖国神社にもおどろおどろしいイメージを抱いていたが、行ってみて、その静かな佇まいに驚いた」と言ったという。

 なるほど、今は、そのあたりを制服姿の軍人が歩くことはない。しかし、安部政権、そして、東京都の石原都知事は、そういう状態が来ることを思い描いているのは明らかである。しかし、護憲平和勢力が、自衛隊が制服姿で、街を自由に闊歩することのないように、運動をしてきたから、今はそうなっていないのである。靖国神社については、遊就館の展示のことが書いていない。どんな宗教施設も、だいたい静かな佇まいである。もっとも、香港の道教の寺院は、人がやたらと多くてにぎやかだったが。

 最後に、櫻井氏は、「人的交流を進めることで、中国人の反日感情は必ず消えていく。日本人は日本のあり方に自信を持ってよいのだ」という。櫻井氏が勤めていた「クリスチャン・サイエンス・モニター」というアメリカの新聞社は、公平中立を貫いているというところらしいが、なるほど、櫻井氏は、最後には、日中の人的交流こそが、反日感情を消す有効な手段だと言うのであるから、バランスがとれているように見える。

 彼女は、日中対立を煽り、中国から資本を引き上げて、インドに投資せよと叫んだようなファナティックな連中とは、また違うようだ。それが、首相就任早々、中国を訪問した安部首相の立場と妙に重なるところが、妙である。権力に迎合したわけではあるまいが。

 それから、一番最後の「日本人は日本のあり方に自身を持ってよいのだ」というのは、どのような「あり方」なのだろうか? これは、アメリカ流の楽観主義で行けばよいという意味なのだろうか? 元来日本人は、慎重な民族という見方もあるのだが、ここだけはアメリカ流がいいというのか? 櫻井氏に、日米折衷のようなブレを感じるのは、私だけだろうか?

「 日本を知れば消える反日感情 日中の人的交流が示す可能性 」
『週刊ダイヤモンド』     2007年6月2日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 692

 過日、久しぶりに25年来の中国の友人に会った。ビジネスで大成功を収め、富豪となった友人夫妻は、文化大革命当時、紅衛兵だった。農村に下放され、現在も農村では日常茶飯の飢えの苦しみを存分に経験したそうだ。

 彼らはやがて北京に戻り、大学を卒業し、日本に留学した。私との出会いはそのときである。この上なくすばらしい友人である夫妻は、しかし、日本の諸環境に不満で、日本を去り第三国に移住、国籍を取得した。その後、香港、北京を舞台にビジネスに乗り出し、大成功を収めたのだ。

 ヤオハンとのかかわりもあった。周知のように、ヤオハンの和田一夫氏は中国進出で、ほぼ全資産を失った。小さな八百屋の時代から、家族全員が努力し、従業員の勤勉さに支えられて築き上げた全てが、中国ビジネスの拡大でつまずいたことで、あっという間に消滅したのだ。

 経営者としての和田氏の判断ミスも当然ある。しかし、中国人相手の取引の難しさは、いまや常識である。法律も約束事も一顧だにしない理不尽極まる彼らによって、文字どおり身ぐるみ剥がされたのがヤオハンである。中国人の親切さとともにあこぎさも見聞してきた私は、和田氏らに対して気の毒だという想いを捨て切れない。しかし、友人は、このヤオハンと和田氏を悪し様に非難するのだった。

 失敗し尽くした人々への容赦のない非難は聞くのもつらく、私たちの交流は少しばかり遠のいた。で、過日の再会はしばらくぶりだったのである。

 夫妻は今、東京の海を見晴らす高層億ションを探している。日本定住を決めた友人は言う。「中国では、どんなに資産を蓄えても、どんなに権力を手に入れても、環境汚染から逃れることはできない。大富豪も共産党幹部も、汚染された空気と汚染された水で暮らさなければならない。現在の中国での成功は意味がないのです」。

 大病で手術をしたばかりの友人はさらに言う。「結局、日本がいちばんいい。どこも本当に清潔。食べ物も安全。社会も安全。第一、人間が優しいですよ」と。

 友人とは、これまでに靖国神社、南京事件、尖閣諸島など、こもごも語り合ってきた。意見は常にぶつかり、友人はあくまでも中国が正しいと突っ張るのだった。だが今回、友人は言った。「日本も悪いけれど、中国も悪い」と。「中国も悪い」と認めたのは、長い付き合いのなかで、これがおそらく初めてのことだ。

 なぜ、こんなことを長々と紹介するのかといえば、それは、友人のような人が、中国にはきわめて多いからだ。政権の中枢に近く、一般の中国人にとっては夢のような生活をしている富豪、権力者、高官たちのなかには、じつは中国の抱える矛盾も問題も非常に明晰に理解し、日本こそが理想の国だと考える人が少なくない。日本を高く評価してはいても決して口にしなかったその認識を、彼らはようやく口にするようになったのだ。

 中国共産党政権は情報封鎖を徹底させることで、国民に内外の実情を知らせず、日本を敵に仕立て上げてきた。日本人は軍国主義から離れることのできない邪悪な民族だと教育してきた。そうすることで、かろうじて共産党の権威を保ってきた。しかし、日本の実情を知れば、中国人の想いも変化する。

 知ることでどんな変化が生ずるか。ある留学生の言葉を紹介したい。

 「中国にいたときは、日本は軍国主義の国だと頭から信じていた。しかし、来日して驚いたのは、何週間か過ぎても、軍人らしき人物を一人も見かけなかったことだ。靖国神社にもおどろおどろしいイメージを抱いていたが、行ってみて、その静かな佇まいに驚いた」

 人的交流を進めることで、中国人の反日感情は必ず消えていく。日本人は日本のあり方に自信を持ってよいのだ。

2007/6/2
櫻井よしこ

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