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田原総一郎氏の政局分析批判

 参議院選挙での自民党惨敗について、いろいろなことが言われている。その中でも、田原総一郎と言えば、これまでは、政治家の本音を引き出すことで、名声をかちえ、建前ではなく、世の中の真実を暴き出す鋭い論評を行うことで、名声を得てきた評論家でありテレビ司会者であった。

 この人のどうしたのかと疑問に思わざるを得ない選挙結果分析が、日経BPネットのコラムがある。「田原総一郎の政財界「ここだけの話」「安部続投で動き出した解散総選挙へのシナリオ」である。

この中で、田原氏は、民主党が「1人区」で圧勝した原因を、小沢戦略が見事に功を奏したと評している。どういうことか?

 小沢民主党代表は、3つの約束を掲げた。それは、①年金を2階建てにして、1階部分を全部税金、2階の部分を厚生年金・国民年金・共済年金で一本化するというものである。この問題について、岡田克也元代表と前原元代表は、1階部分を消費税3%増税でまかなうと答えたが、小沢代表は増税しないと言っているが、財源については、何度質問しても分からなかったという。

 この場合、今でもそうだが、野党には、財政の具体的な部分がなかなかわからないようになっていて、官僚の秘密主義を破るのは容易ではない。しかも、前原前代表は、反小沢勢力であって、小沢代表の考えに同調していないのである。だから、具体的な答えができにくいのは当然であって、質問が、具体的条件を無視した抽象的なものになっているのであり、質問が悪いのに、それを質問した方に一つもその自覚も反省もないのである。田原氏は、自分は絶対正しいという抽象的な正義の立場に立って、無茶な質問をして、その答えがないと批判しているのである。田原氏の自省が先で、それから、どういう立場と条件の下にある相手なのかを理解した上で、質問しなければならないのである。

予算の組み替え、予算の節約などで調達可能だというのが、小沢氏の答えで、具体的にどこをどう削って、どう予算を組み替えられるかは、官僚の握っている具体的な情報を精査した上でないと具体的な数字は出せないのである。だから、答えは、これから、出すしかない。

  ②は、農家一戸一戸に助成金という形で金を渡すこと、③子育て支援

 ②について、田原氏は、「これはどうみても“ばら撒き”である」と述べている。彼は、800兆円の借金があるのに、ばらまくカネはどこから出すのかという。節約が必要なのに、その反対のことをやろうとするのは選挙目当てだというのである。しかし、今回の自民党の「1人区」惨敗は、自民党農政へのノーであることは明らかで、小泉農政改革の目玉であった農地の集約・大規模化による農産物輸出促進のための集落営農化が農民に受け入れられなかったことを意味している。

 それと、自民党の農村での支持の後退は、長期的傾向であるという指摘もある。働き手の高齢化・跡継ぎの不在ということは、農村崩壊の危機を深めており、それに対して、自民党農政が納得できるものではなかったということを意味している。『読売新聞』は、それに対して、WTO交渉での農業分野での交渉妥結のためには、大規模農業への集約しかないと繰り返し主張しているが、それは、農業の切り捨てで、工業・サービス分野などでのWTO自由化交渉を進めたいという都市部大企業の利害を代弁するものである。

 田原氏は、都市部でのそうした連中、高級官僚や財界との交流で、かれらの利害を吹き込まれて、それが刷り込まれてしまっているのである。

 その基礎には、エゴ・利害・ブルジョア的功利主義的経済主義的人間観があり、卑俗な物の見方、一面的な経済主義イデオロギーがある。そしてそれへの還元主義がある。

  彼は、参議院選挙での自民党大敗・民主党大勝の一番の理由を、自民党はムードに負けたと考えている。自民党支持組織がぶっこわれているのだから、民主党のブームが終わっても、自民党の大勝とはなりにくいのである。もしかすると第三勢力に風が吹くことになるのかもしれないのである。

 田原氏がこういう見方に陥ってしまうのは、自民党を権力欲の塊としか見られないからである。大敗した自民党は、今、民主党との大連立を模索しているはずだと田原氏は言う。政権党であり続けることが自民党の存在理由だからだというのである。すると、小泉「改革」も、しょせんは、政権を維持するためにすぎなかったというのだろうか? おそらく、田原氏は、小泉政治は、自民党政治としては例外的な特殊例だと言うのだろう。小泉は変わり者だと。しかし、自民党自身の本質は変わっていないというわけだ。

 であれば、森内閣支持率が、8%まで下がったように、安部政権の支持率も、下がり続ける可能性が高いということになる。そこで、解散総選挙を避けるために、大連立を模索するだろうというのである。しかし、安部続投だと、支持率が低迷し続ける可能性が高いとなると、ほっといても、2年後には総選挙があるわけだから、自民党は大敗するのではないだろうか? それなのに、その自民党を救うために大連立するメリットは、小沢民主党にはあまりないように思える。やはり、早期解散総選挙に追い込むのが、早道だろう。安部内閣の支持率が低迷すれば、「加藤の乱」のような動きが強まる可能性が高いからである。野党を支持して、安部不信任決議に賛成する自民党議員が大量に出てくる可能性もある。

 田原氏の分析では、政党や政治の動きを、権力欲とか利権への固執とか、小沢代表の選挙戦術とか、そういうものに還元して分析するだけになっていて、かれらを突き動かしている大衆の利害や感情や行動や心理がまったく無視されている。ただ、小沢や安部などの個人心理や狙いや思いや作戦などしか見ていないのである。それと共通するもの、その延長としてしか政党を見ておらず、政党を通して、自己主張している大衆、集団、人々の姿を見ていないのである。田原氏は選挙前に全農の講演会に講師として呼ばれて、農協が、圧倒的に民主党支持だったのに驚いたと書いているにも関わらず、農民利害と政治が無関係でもあるかのように書いているのだ。

 こういうイデオロギッシュな経済主義的人間観・世界観で、物事を見たり、語ったりしている人は、多い。しかし、現実を動かしているのは、農民などの大衆であって、政治は、その中のどれかの集合利益を代弁しているものなのである。安部自民党は、大都市・大企業・大農・大地主の利益を多く代弁したのであり、民主党は、中小企業・労組・中小農の利益を多く代弁したというのが、この選挙結果であり、多数派を代表したのである。しかし、実際には、民主党が多数派の利害を代表させられたとはいえ、今後もそのままとは限らない。上層の利害を反映するように、大企業の代弁人の経済学者などや買収などによって、変質させられるかもしれないのである。等々。

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