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麻生・福田公開討論に徒然思う

 自民党の総裁選は、いよいよ最終局面に入っている。
 
 党内情勢では、福田優勢は動いていないようだ。
 
 21日の公開討論会では、福田候補は、淡々と政策や主張を語るという感じで、麻生候補は、「国民」のプライドをくすぐりながら、ポピュリズム的なやり方を取っていた感じがする。
 
 福田候補は、地方・格差などの痛みの緩和という保守本流的な政治理念を強調していたが、それにたいして麻生候補は、日本の歴史・伝統・文化の独自性、日本文明の他の文明との違いを強調し、それに誇りを持つべきだということを繰り返し強調した。要するに、ハンチントンのトンチンカンな文明論の焼き直しだろう。

 福田候補の考えは、古い自民党の普通の保守思想を反映した政治主張である。それに対して、麻生候補の方の考えは、民主党支持拡大に示された日本国家の自主独立を求める民意を意識したものだろう。
 
 麻生候補は、公開討論会で、戦前の紙芝居は、手っ取り早い失業対策であったとともに物語を連続的な絵で描いたという点で、後のマンガの元になったが、そういう日本独自の文化が、今では世界に広まっているという点を強調した。物語をマンガにするというのは日本が最初に行ったというのである。それなら、鳥獣戯画がマンガのルーツと言えないこともないわけだ。
 
 その文脈の中で、継体天皇以降の皇位の確実な資料による男系継承の存在をも、日本独自の伝統文化に入れていることがまず問題である。いわゆる「記紀」については、新京都学派の梅原猛氏の『神々の流竄』や上山春平氏の『神々の体系』で、記紀編纂期に藤原体制を築いていた藤原氏に都合良く書かれていて、要するに藤原イデオロギーによって書かれているという指摘もあるし、同じ天皇の事績を複数の天皇に分けて記述しているという水野裕氏の『大和の王権』の指摘があるというように、史実がはっきりしないことが多い。天皇陵とされている宮内庁所管の古墳の学術調査があれば、もっとはっきりするはずだが、宮内庁は限定的な調査しか認めていない。
 
 世界中どんなところだって、他にない独自の伝統や文化の一つや二つはある。また、麻生候補は、日本のいつの時代のどの範囲の日本のことを言っているのかがよくわからない。古代には、北九州から朝鮮半島南部には、きわめて近い文化圏があった。どちらがどちらに影響を与えたかなどというのは、後の時代のナショナリズムによる観点であって、似たような発掘物が出てきていることから、この範囲に共通文化圏があったことは確かである。
 
 古代の日本の範囲といっても、大和政権の成立範囲も、東北の中部にまで限られていたし、それも、全域を完全支配していたわけでもない。平安時代にも、現地での反乱が相次いでいて、桓武天皇(この人の母親が、朝鮮半島の人であることを、現天皇が認めた)は、渡来系と言われる坂上田村麻呂を征夷大将軍として派遣し、その平定に苦慮した。それに、記紀によれば、朝鮮半島南部での争乱の中で、北九州で、磐井の乱が起きたり、吉備地方(現在の岡山県のあたり)に大和政権の中で、半ば公然と独立勢力を維持していた吉備王権があったりした。それに、この頃、沖縄と北海道はまったくその範囲に入っていない。
 
 中世でも、青森や北陸地方は、渤海などと独自のルートで貿易を行っていたし、北海道などのアイヌなどは、ロシアの沿海州地方との交易を行っていたことが発掘品などから明らかになっている。もちろん、つい数十年前には、北は千島・樺太から、南は台湾まで、そして朝鮮半島も、日本の国土であった。それも、沖縄はアメリカ軍政下に長くあって、外国だったし、北方4島も、ロシアの支配下にある。韓国との間で、竹島の領有権争いがあって、江戸時代の文献資料なども、引っ張り出されて、双方が自説を譲らず対立し続けている。領土は、国のメンツということもあるが、しかし、それは、経済水域を左右し、海洋資源などの権益争いと結びついている。明治政府が、その初期にいったんは竹島の領有権を放棄しながら、その後、朝鮮半島進出、ロシアとの対峙という政治的必要から、実力占拠に出たのは、その軍事的利用価値のためであった。
 
 こういう次第で、歴史上、日本独自の伝統だの文化だのの及ぶ範囲というのは変化してきたのである。
 
 麻生候補がこういう話を持ち出すのは、日本が、独自の文化・文明を持っていて、それを世界に商品化して売り込むという輸出戦略を持っているからである。おそらくは、彼はマンガ好きというばかりではなく、秋葉原の「オタク文化」を輸出産業化できると思っている。秋葉原は、こうしたソフトと先端技術を結合していて、マンガ文化をソフトとして、それをゲーム機などのハイテク機器と合わせて、世界に売り出そうという戦略を抱いているのである。
 
 しかし、彼が言うように、日本独自の文化や伝統をソフト化して輸出して、はたして、西欧のキリスト教文化の国々で、受け入れられるかという問題がある。例えば、ハリウッドで作られた「ラスト・サムライ」は、武士道を西洋的な騎士道と混合しているように見える。武士道の場合は、やはり忠君忠義という縦の関係が基本であるが、騎士道には、友情という横の関係がある。武士の場合は、連帯責任、一蓮托生で、類は一族郎党に及ぶものだ。騎士道の場合は、個人というものがあり、恋愛がある。ニーチェが強調した貴族の騎士道的恋愛である。それは、デュマの『三銃士』に描かれているものである。
 
 脱線したけれども、麻生候補が言うことは、すでに世界的にある程度の文化的共通性があって、それに日本的なものを加味し、織り交ぜれば、ソフト産業が世界商品を生み出せるだろうという話である。これは、これで、福田候補が、従来型の穏健保守主義的な手堅い政治をたんたんと語っているのに対して、新しい夢を語ることで、積極的な攻めの姿勢を対置して、差別化を図っていると言える。しかし、一時、、韓国政府のソフト輸出戦略によって、育成された映画・ソフト産業による輸出攻勢もあって、韓流ブームが日本・中国・台湾・東南アジアに広まっていった時期があるが、それが一時的ブームとして沈静化してしまったようになる可能性もある。流行というものはそうであり、さしものハリウッドでさえ、厳しい状況になっているのである。もっとも、日本の韓流ブームは、「冬のソナタ」のインパクトによるところが大きいというのが実態だったと思うけれども。
 
 麻生候補が言う、紙芝居が失体事業であったという点については、そこからマンガという新産業が生まれたというイノベーション(革新)のことを強調したものであろう。しかし、それも、マンガ業界が、今、傾きつつあるように、一時的な革新でしかなく、それは、新しいイノベーションが起き、それが成功しないと、従来産業のように停滞してしまうのである。シュンペーターは、その結果、利潤がゼロまで落ちると言った。イノベーションが起きるかどうかは、主に、それを推進し意識的に追求する創造者としての企業家とそれを評価して投資する投資家と技術開発ということにかかっているとシュンペーターは言う。構造改革路線の採用以来、日本の企業は、分配構造の変革に努め、労働分配率を低め、株主や役員報酬に多く分配し、人件費を抑制するように行動してきた。それによって、投資家は、投資からより多くの利益を引き出そうとするようになり、その分を、企業家は、経費・人件費の削減などを節約して応えてきたのである。企業が株式などの直接金融方式での資金調達する場合、投資家(とくに外資)は、短期的な利益を重視する傾向が強い。
 
 麻生候補のプラン・戦略の実現には、ある程度の長い期間の技術育成や商品開発が必要で、すぐに実現できるというものではない。実際には、すでに、小泉ー安部の改革路線の清算が始まっていることは、高齢者医療費の自己負担引き上げ凍結の決定でも露わになった。衆院選が近い以上、そうせざるを得ないのである。この流れは続かざるを得ない。いくら、爆笑問題の『太田総理』という日本テレビ系の番組の投票で、麻生候補支持が7割近くで、福田候補が3割ぐらいという結果が出ても、そのとおりにはならないのである。投票者の多くは、テレビの気楽さということもあるし、恐らく東京など都市部の視聴者だろう。その程度の重みでしかない。
 
 今選挙政治で焦点になっているのは、地方である。そして、小沢民主党の参院選圧勝を受けて、官僚は参議院では、民主党に従来より上のクラスの幹部を法案説明に送り込んでいるし、経団連の御手洗会長は、小沢路線・民主党の政策の支持を表明するなど、態度転換が各界各層で進んでいる。かくして、小泉ー安部路線の清算は、急ピッチで進んでいくだろう。麻生候補は、その点で、この路線と近いようにイメージされているのが、不利に働いており、彼は、そのようなイメージを払拭しようとしているのだろうが、それには「時すでに遅し」であろう。もし福田政権が、人々の生活の安定や未来への希望を感じさせることをある程度でも実現できれば、それなりに人々の評価を受けることになるかもしれない。次の衆議院選挙までに、どこまで、そうできるかどうかはなんとも言えない。ただ、自民党の各派閥は、それを期待しているだろう。
 
 まあ、結果は、日曜日には出る。まとまりなく、徒然と書き連ねてみたけれども、いずれにしても、参議院選挙で示された民意が生みだした流動化が、まだまだ続くことは確かである。

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