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2008年は、変化の年

 今年の新聞各紙の社説は、「変化」を取り上げたものが多い。
 
 『読売』社説は、低所得者向け住宅ローンの「サプライム・ローン」破綻から続く、アメリカ経済の混乱が、世界的に金融不安を生みだしたことやそれと同時に、ユーロ高、ドル安の中長期的傾向を指摘して、基軸通貨の移行の可能性を指摘している。
 
 『毎日』『産経』は、それぞれ、参議院選挙での自民党大敗・民主躍進、衆参ねじれ国会情況におちいった政治の変化を指摘し、『朝日』は、地球環境問題などのグローバルな環境変化の問題を取り上げている。
 
 『読売』の元旦の社説「多極化世界への変動に備えよ 外交力に必要な国内体制の再構築」は、「欧州の単一通貨ユーロが着実に力を伸ばし、第2の基軸通貨としての地歩を築いている。原油高騰で巨額の金融資産を積み上げている中東産油国や外貨準備世界一の中国などは、その一部を徐々にドルからユーロへと移し始めた」ことを指摘した。

 『読売』は、3日の社説「新たな秩序へ 米国の揺らぎで広がる不安、視界不良の世界経済」で、引き続き、世界経済の変化について書いている。そこで、国家ファンドと呼ばれる石油輸出国のオイル・マネーや中国などからの世界金融市場への資金提供が巨額にのぼるようになっていて、世界経済に占める影響力が大きくなってきていることを指摘している。サブプライム・ローン問題で、資本不足に陥りそうになった欧米の金融機関に資金を提供しているのは、これらの国家ファンドだという。
 
 経済的には、世界の多極化と基軸通貨国のユーロへのシフト、製造業での新興工業国の発展ということは、趨勢である。しかし、天木直人氏が指摘するように、政治的軍事的には、アメリカが世界の中心として役割を果たすということは、短期的には変化しないだろう。政治的軍事的に日米同盟を機軸とすべしという『読売』の主張は、こうした現実からきている。アメリカが世界秩序の維持のために果たしている軍事的政治的役割を代替できる国はなく、小沢民主党が掲げる国連中心の集団的安全保障という理念も、それを担保できる実力という点でもアメリカに代替できるものは今のところない。
 
 しかし、経済的には、世界は多極化していき、それに応じて、政治的軍事的外交的に、複数的な選択肢が提示されるような局面が増加することだろう。インド洋での自衛艦の給油活動は、そうした局面の一つであると言えよう。こうした事態は、アメリカの「対テロ戦争」が開始された2001年には、なかったことだ。もちろん、イラク戦争に反対するという選択肢はあった。独仏は、イラク戦争に反対した。一時的に米欧関係は悪化したが、だからといって、米欧関係が決裂することはなかった。他方では、米欧は、戦後初のドイツ軍の域外派兵をコソボ紛争の際に、行っている。
 
 日本政治においても、選択肢が存在することが明らかになった。アメリカの「対テロ戦争」に完全に従うか拒否するかという選択肢があるということが、この間、わかった。いくら『読売』『産経』が、そこには選択の余地がないと強調しようとである。
 
 他の選択肢も、もちろん存在している。年金問題であれ、労働法制であれ、金融政策であれ、教育政策であれ、選択肢が存在している。それを二大政党制というシステムで、代表しきれるかと言えば、それは、不可能である。そのことは、アメリカの二大政党制の下で繰り返し起きている第三極の動き、イギリスで、小選挙区制にも関わらず続く多党化の傾向、そして、大連立下で、勢力を伸ばしているドイツの左翼と右翼という両極の存在、等々、が示している。
 
 一度、政権交代してみればいいし、それを経験することで、人々は、二大政党制が、選択肢をそれほど増やさないことに気づくだろうし、まま逆のことが起きることを実際に学ぶだろう。それはよいことだと思う。
 
 いずれにしても、今年は、おそらくは、人々の多くが望んでいるように、変化が起こる年となることだろう。
 
 
 新たな秩序へ 米国の揺らぎで広がる不安、視界不良の世界経済(1月3日付・読売社説)
 ◆FRBの舵取りが重要◆

 世界経済はどうなるのか。その先行きに不透明感が漂っている。

 2007年の世界経済は、実質5%台の順調な成長を達成したようだ。米国、欧州、日本は減速したが、2ケタ成長の中国やインド、ロシア、ブラジルのBRICs諸国が高成長を維持し、先進国のもたつきをカバーした。

 国際通貨基金(IMF)の予想では、今年の世界経済の成長は4%台に鈍化する。昨年同様、米国、欧州、日本などが1~2%の低空飛行にとどまり、足を引っ張ると見られるからだ。

 最も懸念されるのは、住宅バブルの崩壊で、低所得者向け住宅融資「サブプライムローン」問題の“震源地”となった米国経済の失速だ。

 昨年7~9月期の国内総生産(GDP)の実質成長率は、前期比4・9%増を記録した。だが、住宅市況の悪化は、GDPの7割を占める個人消費を冷え込ませそうだ。堅調にも見える米国経済は、既に急減速し始めた可能性が高い。

 サブプライムローンを組み込んだ証券化商品は世界中に販売された。住宅融資の焦げ付きが増加し、欧米の金融機関は巨額損失を抱えている。損失の全体像が分からない不安から、世界の株式・金融市場の動揺も収まらない。

 米国経済の調整が長引くと、対米輸出に依存する日本、中国を中心としたアジアの景気に悪影響を及ぼす。堅調だった欧州経済にもサブプライム問題が波及して、息切れの兆しがある。過熱する中国経済の急減速や、バブル崩壊があれば、日本経済はさらに打撃を受ける。

 先進国経済が低迷しても、新興国の高成長が十分に補うという「デカップリング(非連動)論」が唱えられている。しかし、過度な楽観は禁物だ。

 サブプライム問題の悪循環や長期化を防ぐため、早期に歯止めをかけねばならない。世界経済が安定軌道に乗れるかどうかは、その成否がカギを握る。

 米連邦準備制度理事会(FRB)は昨年、金融緩和に転換し、短期金利の誘導目標のフェデラル・ファンド(FF)金利を年4・25%まで引き下げた。欧州中央銀行(ECB)などと協調して、短期金融市場に巨額な資金を供給した。

 ◆基軸通貨ドルの行方◆

 市場の安定や景気てこ入れを目指し、FRBは追加利下げを検討している。インフレ懸念から、利下げ慎重論も強い。日銀やECBとの政策協調の強化も必要だ。米国経済の失速を回避するには、FRBの舵(かじ)取りが重要になろう。

 世界経済の潜在的リスクとして、基軸通貨である米ドルに対する信認が揺らぎ始めたことが指摘されよう。

 1999年に誕生した欧州単一通貨ユーロは、欧州の経済力増大とともに、急速に台頭した。新年からキプロス、マルタが加わり、ユーロ圏は15か国に拡大した。“準基軸通貨”のユーロは対ドル、対円で最高値圏で推移している。

 世界の外貨準備高に占めるドルの比率は、2001年の71%から07年に65%に低下する一方、ユーロの比率は、19%から25%に上昇した。ドル離れとドル安は今年、さらに進む可能性がある。

 米国はドルへの信認を背景に、日本、中国、中東などからの資金流入で巨額の経常赤字を穴埋めした。そのおかげで、長期金利が低水準で安定し、高成長を持続させてきた。この流れが変わると、米国にとっての好循環が崩れてしまう。

 中国通貨・人民元の改革も焦点だ。中国では物価上昇が目立ってきた。経済の歪(ひず)みを是正し、過熱を沈静化させる必要がある。安定成長路線への軟着陸にはさらなる人民元の切り上げが望まれる。

 原油価格が1バレル=100ドル近くにまで高騰し、世界でインフレ圧力が高まっている。最大の要因は、投機資金など余剰マネーの市場への流入だ。背景には、中国が資源獲得に血眼になっていることや、ロシアなどの資源ナショナリズムの高まりがある。

 巨大マネーは、世界経済の“怪物”に育ってきた。原油高で潤う中東産油国のオイルマネーや、為替介入で膨らんだ1兆4000億ドルの外貨準備高を持つ中国などの政府系ファンド(SWF)が続々と誕生している。

 サブプライムローン問題で資本不足に陥った欧米金融大手に対し、アラブ首長国連邦(UAE)や中国などのSWFが相次いで巨額資金を出資した。市場の安定に寄与する“救世主”として、今のところは歓迎されている。

 ◆存在感増す国家マネー◆

 だが、これが国家マネーの存在感を一気に高めたといえよう。SWFの規模はさらに拡大する見通しだ。M&A(企業の合併・買収)市場でも動向が注目される。国家マネーが攪乱(かくらん)要素にならないよう、どうコントロールすべきか。難しい課題を突きつけられている。

 通商では、世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)が難航したままだ。早期合意を目指す必要がある。一方、2国間・地域間の経済連携協定(EPA)が加速している。日本は懸案の農業分野の国際競争力を強化し、市場開放を進めるべきだ。

 人口減社会を迎えた日本が成長を続けるには、グローバルな市場で日本が生きていく、通商国家としての基本戦略が欠かせない。

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