« 経済がわかっていない新自由主義経済学 | トップページ | 物価上昇とフリードマン »

ハーヴェイ『新自由主義』を読んで

 世界的地祇学者デヴィット・ハーヴェイの『新自由主義』その歴史的展開と現在(作品社)に目を通してみた。

 この中で、ハーヴェイは、「一九七〇年代にアメリカはグローバル生産における支配力を失い、そして一九九〇年代にはグローバル金融の権力も浸食されはじめた。科学指導上の指導的地位も脅かされ、文化と道徳的指導性におけるそのヘゲモニーも急速に衰えていった」(p273)と述べている、そして、グローバルな支配の唯一明白な武器として残されたのが軍事力であった」(同)というのである。ただ、「その軍事力さえも、できることは上空三万フィートからハイテク破壊兵器を操作することに限られている(同)という。

 イラク戦争は、アメリカの新型兵器の見本市の様相を呈したが、その後のアメリカとその傀儡政権の統治・支配は、ローテクなゲリラ戦によって、脅かされ続けている。

 彼は、アメリカでの破滅的で自滅的な潮流に対する有力な大綱有働が台頭していることを指摘しているが、それがバラバラで確固とした組織を欠いていることを嘆いている。そして彼は、その原因を、労働運動、アイデンティティ・ポリティクス運動、ポスト・モダン的な知的潮流全般の自傷行為に求めている。

 そして、リオタールの『ポスト・モダンの条件』から、「真実・権威修飾的な誘惑のあいだにはいかなる差異も存在しない。上品な語りと興味深い物語をする人が力をもつのだ」という言葉を引用し、それに対するテリー・イーグルトンの批判を肯定する。ポスト・モダニズムが、真実とは社会的構築物であり単なる言説の作用にすぎないと唱えるのに対して、彼は、それはそうとは知らずに、ホワイトハウスの路線と一致していると批判する。

 そして彼は、「「埋め込まれた自由主義」の形成とそれに続く新自由主義化の転換の歴史を全体として見渡すなら、エリート階級の権力を抑制したり回復したりする上で階級闘争が決定的な役割を果たしてきたことがわかる。これまでうまく覆い隠されてきたが、圧倒的な階級権力を回復し増大させ、そしてー中国やロシアの場合のようにー新たに構築するための、支配エリートの例の巧みな戦略がまるまる一世代も続いてきた」(p278)と述べる。

 忸怩たる思いに駆られるのは、ケインズ主義的な「労使協調」やポスト・モダン派の階級はなく、差異の戯れだけがあるとかいう類の空想話の流行の影で、上層階級は失地回復を図り、下層の現実が見えにくくされてしまったことだ。それも、ようやく、格差社会論などとして、明らかにされつつあるが。

 国会では、ガソリンの暫定税率延長法案が衆議院で委員会可決され、与野党対決ムードに包まれている。同時に、衆院予算委員会では、労働法制をめぐる論議がなされた。公明党の冬柴議員は、労働法制の基本理念は、労働者保護であることを強調した、ちょうど、日本マクドナルドの店長が、管理職としての実体のない勤務状況に対して、労働者としての未払い残業代を支払うよう命じた地裁判決が出たばかりで、その点も取り上げられた。枡添厚生労働大臣は、労働法制の基本を労働者保護と認めつつ、規制緩和は必要だと述べた。こんな融和主義的態度だから、実効性が伴わないのである。

 『新自由主義』の翻訳者の一人である渡辺治氏は、日本の新自由主義について、解説で、「小泉政権下で新自由主義は一気に進行し、大企業の競争力強化による景気回復が実現した。しかし、その当然の結果であるが、現存社会の安定は崩れ、社会統合の破綻が顕になった。「格差社会」「ワーキングプア」という言葉が普及し、犯罪の増加、家族の崩壊などが社会問題化した。こうした社会統合の破綻に対処すべく、小泉政権下で新保守主義が台頭した。ハーヴェイのいう通り、新保守主義は新自由主義による矛盾の顕在化の所産として台頭したのである」(p318)と述べている。それは、小泉後の安部政権誕生として現れたのであるが、それも、短期間で崩壊してしまった。

 アメリカでも、新保守主義は分裂している。ブッシュ政権も、死に体となっている。アメリカは、今、新自由主義を投げ捨て、サブプライム・ローン破綻をきっかけにした景気後退局面を食い止めるべく、16兆円の財政出動や企業減税などの大型の予算措置を取ろうとしている。経済政策で、新自由主義の基本線を守りながら、微修正を行っているにすぎない福田政権からは、経済対策についての発言がない。「市場に任せよ」ということだろうか? 経済政策でも、日本は世界から遅れを取っているのである。

|

« 経済がわかっていない新自由主義経済学 | トップページ | 物価上昇とフリードマン »

雑文」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。