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職場いじめ問題と派遣労働について

 3月4日のNHKの「クローズアップ現代」で、職場での同僚によるいじめが増えている問題を取り上げていた。

 驚くべきことに、子供のいじめをなくす立場にある教師間のいじめが増えているということである。それに、看護士にもあって、取り上げられた例では、救急治療室の看護士間でいじめがあることで、それが原因で、患者の命にかかわる事件が起きかねないということである。そして、非正社員の中でのいじめも深刻化していて、その原因は、ベテラン労働者が他の労働者をしきっているせいだという。いわゆる新入りいじめであるが、そこには、非正社員が不安定な雇用形態のために、雇用を守るために、それを脅かしかねない新入りを排除しようとするという動機があるように見えた。

 こうした職場でのいじめは、ヨーロッパでもアメリカでもあって、それぞれ政府が対策を取っているという。

 番組は、企業側が、いじめによる生産性の低下が深刻だと気が付いたことから、対策を始めた様子を紹介していた。パート2人が製造業の職場からいじめで止めた例では、新人を教育するための教育費や生産性の低下がはっきりと現われていて、企業利益が大きく損なわれることが統計で示された。訓練されたパート労働者2人が貢献する企業利益の額はかなり大きい。労働者過剰状態から労働者不足になってきているなかで、いじめによって訓練されたパート労働者を失うのは企業にとって痛いものになってきたのである。

 1月の失業率は低下していて、少子化・人口減少の中で、中長期的には労働力不足となることが懸念されている。もちろん、大企業は、日本で雇用できない労働者を他国で雇うのであるが、そこでも同じ問題が発生する可能性もあり、結局、この問題が生産性を引き下げる以上、対策を講じないわけにはいかないわけである。

 ベテラン労働者は、自らの雇用を守るために、防衛的攻撃に出ているわけであり、その利害が共通するために、大ぜいが手を組んで、脅威となりそうな新人いじめとなるわけである。雇用の不安定さや職場で能力主義や個人別の生産性の評価などがプレッシャーとなっているのである。

 番組のキャスターは、チームなり集団労働の評価ではなく、個人別の能力評価・成果主義などに問題があるのではないかと指摘したのだが、呼ばれてきた学者は、それには触れなかった。彼はただ諸外国のように、同僚間のいじめの定義を確定して、問題化することと、企業がトップダウンで対策をとることを提唱しただけであった。

 対策に乗り出したある企業は、社会保険労務士に、点検と対策を求めた。その社会保険労務士は、職場内を視察した上で、パートの休憩室のテーブルの上に、ベテラン労働者の私物がのせっぱなしになっていることを問題として指摘した。パート用のロッカーがないためだとして、ロッカーの設置を提言した。第二に、企業がこうしたいじめをなくす強い意思を示す必要があると指摘した。職場内に、いじめ根絶を記したポスターが貼られた。

 パートは、その企業と雇用関係があり、管理の責任も企業にある。派遣の場合は、雇用関係は、派遣元にあるが、仕事は派遣先の指示に従う。こうした場合の派遣元と派遣先との労働者管理のあり方については、まだ整理がついておらず、ケースバイケースのようである。『労働研究機構』の「派遣労働者の人事管理と労働意欲」という論文で、島貫智行(山梨学院大学専任講師)は、「派遣労働とは,企業の人事管理の観点からみれば,内部労働市場と外部労働市場の両方の要素を併せ持つ人材活用といえる。同時に,派遣労働者個人にとっての働き方やキャリア形成もまた,企業による管理と労働者自身による自己管理の要素をともに含んでいる。その意味で,派遣労働の人事管理は「雇用と自営」の中間形態であるといえよう」と述べている。かつては、正社員による非正社員へのいじめが問題になったことがあるが、この時は、正社員がリストラの対象となり、雇用がおびやかされていた。

 島貫氏は、「本論の分析結果は,派遣労働者の現在の働き方への満足や将来のキャリアの見通しを高める上で派遣先と派遣元の人事管理がともに重要であることを示しており,派遣労働者が派遣労働という働き方を通じて長期的なキャリアを形成していくには,派遣先や派遣元という企業間のパートナーシップだけでなく,派遣先と派遣元,派遣労働者という三者間のパートナーシップが重要であることを示唆している」と述べている。派遣の場合は、企業の人事機能が、派遣元と派遣先に分かれているのとともに、派遣労働者の自己管理が加わって、三者の連携によって、労働意欲を高める人事管理が可能となるというのである。

派遣先と派遣元が担っている人事機能として氏は、①調達,②育成,③評価・処遇の三つを基本的機能とした上で以下のように整理している。

派遣先の人事管理派遣元の人事管理
人事機能全体派遣労働者の活用
(指揮命令関係)
派遣労働者の配置(供給)
(雇用関係)
①調達仕事内容と人材要件の明確化
○ 派遣労働者に任せる仕事内容の明確化
○ 仕事の遂行に必要なスキルや職務経験の明確化
募集・選考(仕事紹介)
○ 派遣先の仕事や職場に関する情報提供
○ 仕事の希望や職務経験のヒヤリング
②育成OJT
○ 仕事に関する専門知識やノウハウの説明
○ 職場のルールや社内規則の説明
Off-JT
○ スキル開発に必要な教育訓練機会の提供
○ 将来のキャリアを考える機会の提供
③評価・処遇評価
○ 評価基準の明確化
○ 評価結果のフィードバック
処遇
○ 賃金管理
○ 就業機会の提供
④その他物理環境の整備
○ 作業環境の整備
情報共有
○ 業務打合せへの参加
苦情処理
○ 定期的な職場訪問や相談窓口の設置
福利厚生
○ 健康管理のサポートや厚生施設の利用機会の提供

 この分析は、あくまでも、派遣労働が今後も長期的に存在するという前提でのものである。派遣元・派遣先・派遣労働者の三者の人事機能面での提携が、労働意欲を高めるというのが氏の結論である。

 「厚生労働省『派遣労働者実態調査』(2005) によれば,派遣先が派遣労働者を活用する目的は「欠員補充等必要な人員を迅速に確保できるため」(74.0%) や「一時的・季節的な業務量の変動に対処するため」(50.1%) が中心である」という。しかしその余地は、労働力の過剰の程度に左右される。日本の企業の多くが、こうした余地を非正社員を増やすことで大きくしようとしたことは、景気回復にも関わらず、非正規雇用の割合が増えていることからわかる。派遣ばかりではなく、パートなどの人事管理が、労働意欲の向上、したがって生産性の向上という企業目的のために、必要とされているわけだ。かつて、派遣に求められていた必要な人員確保や一時的な業務量の変動への対処などの役割を担ってきたパート・アルバイトなどは、今では、基幹的な労働者になってしまった。サービス業では、パートの管理職まで現われている。派遣はその後を担っているわけだが、いづれ、パートが辿ったような道を歩むことになるかもしれない。しかし、パートが企業の基幹的な労働者となったが、それによって人件費が低められたように、そうなると、さらに人件費が低くなり、しかも、雇用の不安定性や労働者の自己管理によるスキル形成などの企業負担の低下した状態が一般化することになるだろう。年金・保険などの企業負担がなくなるということもある。それによって今度は、正社員の給与や労働条件は低めに抑えられることになろう。

 この番組では、社会保障の充実や賃上げやベテラン労働者へのスキル向上機会の提供や昇給や昇進の機会の提供などがもたらすであろう労働意欲の向上やチームや集団的能力の評価ということがチームワークの形成に与える正の影響などに触れていない。しかし、こうした問題の解決のためには、この方が効果的だと思う。

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