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ウォーラーステインの世界システム論によせて

  ウォーラーステインは、『近代システム』という本で、世界システム論というのを展開している。まことに壮大な作業で感心するのだが、その最後の方で、日本の鎖国問題について書いている。

 彼は、断言しているわけではないが、徳川幕府が鎖国するにいたった主な原因は、ポルトガルによる強引なカトリックの宣教活動のせいだと書いている。それに、徳川幕府を開く頃には、日本は自給できるだけの生産力段階に達していたとも述べている。もし、強引な宣教がなかったら、日本は、東南アジアまで交易圏としていただろうというのである。その宣教の中心はイエズス会であった。徳川幕府が正式に鎖国するのは、島原の乱の後の三代将軍家光の時代であるから、徳川幕府が当初から鎖国策を取ろうとしていたわけではないのは確かである。そして、キリスト教の抑圧・禁止は、鎖国とは直接関係はなかったのである。もし、ポルトガルが、宣教師の布教活動を抑制させて貿易関係を中心に幕府との関係を作ろうとしたら、鎖国しなかった可能性が高かったと言えるかもしれない。

 第二の点については、戦乱を収めた豊臣秀吉の刀狩と農兵分離、そして検地とそれを継承完成させた徳川幕府によって、本百姓を中心とした平等な農業経営の実現、それから「生かさず殺さず」の農民道徳の上からの押し付け、村請け制・五人組の連帯責任制による確実な年貢・貢租徴収システムの確立などによって、徳川幕府の財政基盤は当初は豊かであった。生産高は向上した。それが自給自足を可能とする水準に達していたというならそうだが、「百姓は生かさず殺さず」というようなレベルの生活水準の自給というのもどうかと思う。やはり、彼の世界システム論は壮大すぎて個別のことに正確さを欠くのは止むを得ないのかもしれない。

 もしポルトガルの宣教師たちの強引なキリスト教布教がなければ、鎖国はなく、海外交易を活発に行っただろうというのはどうだろうか? 室町から戦国期に、大名たちが先を争って海外貿易に乗り出していたのは確かである。中国地方の大内氏は、明との朱印船貿易で大きな利益を受けており、戦国期にはタイには日本人移民村さえあった。伊達正宗は、遠くバチカンにまで使節を送っている。キリスト教禁圧は、豊臣秀吉の時に始まったが、徳川家康は、海外貿易の利益に関心を持っていたという。戦国期には、キリスタン大名が何人もいた。それに対して、天下統一を成し遂げた秀吉は、自らを神格化して豊国大明神を祭った。徳川家康についてはその死後、明神とするか権現とするかで幕府中枢の意見が対立し、結局、権現で落ち着き、三代家光の時に、日光東照宮が建立される。家康自身がどう思っていたのかはわからない。本人は、浄土宗の檀家で、念仏をよく唱えていたようだ。徳川家の檀家寺は東京の芝増上寺である。

 ウォーラーステインによれば、世界史では、世界システムが太古から存在していて、それには二種類あり、一つは帝国システム、もう一つは世界経済システムというものだという。世界経済システムが崩壊すると帝国システムになる。世界経済システムは、経済が自律的で不安定であり、帝国システムは、政治的に統合されていて中央集権的だという。これらが相次いで交代してきたというのである。どうしてこういうことを考えたかと言えば、サミール・アミンやフランクらの従属理論が、周辺国の分析の経済分析に偏っていて、中心国の分析を無視したのに不満があったからだと言う。従属学派は、世界の中心国と周辺国の間に不等価交換があることを主張したのだが、それをウォーラーステインは、ローマ帝国と従属国や周縁地域との間に見出したわけである。それが、貢納関係である。

 しかし、最近保守派は、中華帝国による冊封関係を支配従属関係として単純化して描いているが、明と琉球王国の関係を見る限り、明の方が出超であり、海の民間交易を禁じていた明よりも琉球の方が海上交易を活発に行えた分だけ、経済的には得るところが大きかった。薩摩が目をつけたのもそうした琉球の貿易利権であり、それと琉球産の砂糖であった。1609年薩摩は琉球を侵略し実質的な支配下に置くが、琉球王国をそのままにして間接支配したのである。だいたい中華諸帝国の冊封体制は、中国側の持ち出しであったようである。それは経済的利益のためと言うよりは、政治的安定のためという政治的な動機によるものだったのではないだろうか?

 もう一つ彼に影響を与えているのは、ブローデルである。交換システム史観とでもいったらいいだろうか? マリノフスキーのトリブリリアント諸島のフィールド・ワークの研究結果であるクラ交易の影響があるのかもしれない。あるいは、マルセル・モースの贈与論か? まだよくわからない。
 

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