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『孫子』を読む

  「孫子の兵法」の元の『孫子』というのを読んでみた。

  この中には、いろいろと有名な部分がある。孫子は、中国の春秋時代の兵法家で、その思想を集めたとされるのが、『孫子』という本である。これは短いものだが、後々の人、例えば、唐の太宗の愛読書にもなったようである。日本でも戦国大名の甲斐の武田信玄の武田軍ののぼりには『孫子』の中の一節を略した「風林火山」の文字が掲げられていた。

  もとのところはこうだ。

  「故に兵は詐サを以て動き、分合ブンゴウを以て変を為すなり。故に其の疾ハヤきこと風の如く、其の除シズカかなること林の如く、侵掠シンリャクすること火の如く、知り難きこと陰の如く、動かざること山の如く、動くこと雷イカズチの如くにして、郷を掠カスむるには衆を分かち、地を廓ヒロむるには利を分かち、権に懸けて而して動く。迂直の計を先如する者は勝つ。此れ軍争の法なり」(『世界の名著 諸子百家』中央公論234頁)。

  孫子の時代は、周が東周になって、その後、多くの諸侯が乱立した時代で、戦の絶えない戦乱の時代だった。孔子を始め諸子百家と呼ばれる思想家の乱立時代でもあった。その中で、野にあって、兵法の研究をしていた孫子は、縁あって、呉の軍師となる。

  その孫子の語録が『孫子』である。

  まず最初に、「兵とは国家の大事なり」という言葉が出てくる。

  そしてその軍事は、五事を基本にして、七計によって計るべきだという。

  五事とは、①道、②天、③地、④将、⑤法、である。道とは、上と下の心が一体になるということ。天は、自然界のこと。地は、遠近、広さ狭さ、険しさ平坦さ、などの地勢のこと。将は、才知、威信、仁滋、勇気、威厳などの将軍の器量のこと。法は、軍隊編成の法規、官職の担当分野のきまり、などの軍制のこと。

  七計は、①君主の道の比較、②将軍の有能性の比較、③天の時と地の勢いの比較、④法令の徹底度の比較、⑤軍隊の強さの比較、⑥兵士の訓練度の比較、⑦賞罰の公正さの比較、である。

  これに、臨機応変の処置が取れる態勢である「勢」が加わる。

  さらに実践では、権変の道である詭道という敵の不意をつくということもいるという。

  しかし、孫子は兵法について述べつつ、戦わずに勝つのが一番だと述べる。

  「孫子曰く、凡そ用兵の法は、国を全うするを上と為し、国を破るはこれに次ぐ。軍を全うするを上と為し、軍を破るはこれに次ぐ。旅を全うするを上と為し、卒を破るはこれに次ぐ。伍を全うするを上と為し、伍を破るはこれに次ぐ。是の故に百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を届するは善の善なる者なり」(48頁)。

  そこで、最上の戦争は、敵の策謀を打ち破ることで、次が敵と他国との同盟を阻止すること、その次が実戦に及ぶこと、そしてもっとも拙劣なのは城攻めである、という。

  戦いの勝利のためには、五つのことが大事だという。

  「故に勝を知るに五あり。戦うべきときと戦うべからざるとを知る者は勝つ。衆寡シュウカの用を識シる者は勝つ。上下の欲を同じうする者は勝つ。虞グを以て不虞フグを待つ者は勝つ。将、能にして君の御せざる者は勝つ。此の五者は勝を知るの道なり。故に曰く、彼を知り己れを知れば、百戦して殆アヤうからず。彼を知らずして己れを知れば、一勝一負す。彼を知らず己れを知らざれば、戦う毎に必ず殆うし、と」。

  孫子は、「戦いに巧みな人は、戦いの勢いから勝利を得ようとするが、人の能力には期待しない。だから、うまく人を選抜して配置しおえてからは、ただ勢いのままにまかせるのである」と述べている。軍の態勢は、水のように、「無形」がよいと述べている。

  これは、現代的に言い直せば、相互関係ということだろう。この場合の勢いは、配置から生まれるのであり、社会関係から生まれるのであって、人の能力から生まれるのではないというのが鋭い。これは、現代の能力主義の信奉者に聞かせてやりたいところである。

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