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『部落解放運動への提言』について7

  『提言』は、運動の再構築の①として魅力ある運動の創出という項目を立てている。

  まず『提言』は、「従来、部落解放同盟の大会や諸集会では、「兄弟姉妹の皆さん」という呼びかけが行われていた。これは、全国の部落と部落民がおかれてきた差別の歴史と、共通した被差別の実態を基礎に形成されていたアイデンティティであったと言えよう」と述べている。要するに部落差別の被害被差別の共通体験がアイデンティティを形成してきたというのである。

  そして、「しかしながら、従来のアイデンティティ形成を支えていた「共通した被差別の実態」が、これまでの部落解放運動の取り組みや同和行政の実施によって、大きく変貌してきている。この結果、部落解放同盟の組織の現状を直視するとき、同盟員の減少、とりわけ若年層の結集が少ないという重大な問題がある」と述べている。これだけだと「共通した被差別の実態」が、どのように大きく変貌してきているのかがわからない。

  それにたいして奈良県連(山下力理事長)はホームページで以下のように述べている。

  部落解放同盟奈良県連(山下力理事長)

  基本理念

 部落差別の軛から自らを解き放つための21世紀初頭の新しい運動の基調
 Ⅰ いま、なぜ新しい運動路線なのか。 

 生活水準における部落内外の較差はなくなった。しかし、部落差別は存続している。故に、 '65同対審「答申」路線の時代的役割は終焉したと理解するしかない。これまでと同じ運動の繰り返しでは、人と人との新たな関係を再構築していける見込みがなく、「百害あって一利なし」として決別する。

① '65同対審「答申」は、近代社会における部落差別とは"市民的権利と自由の侵害に他ならない"と規定し、わが国の産業と経済がもつ「二重構造」と前近代的な社会風土や非合理的な偏見等がこれを支えてきたと根拠づけてきました。そして、同和地区住民に就職と教育の機会等を完全に保障し、同和地区に滞溜する停滞的過剰人口を近代的な主要産業の生産過程に導入することにより生活の安定と地位向上をはかることが、同和問題解決の「中心的課題」であると指摘したのであります。
  '69年に同和対策事業特別措置法が制定されて以降、約15兆円の公的資金が同和対策に投入され、わが国経済の高度成長の潮流に合流させて「答申」が指摘したところの「中心的課題」はほぼ達成されました。その結果、少なくとも50才以下の世代で、社会的、経済的、文化的な生活水準における部落内外の較差はほとんどなくなったのです。
②部落内外の生活実態における較差が見事に克服されたのに、あろうことか、周辺の人々の部落(民)への差別意識(「答申」が言うところの心理的差別)には見るべき顕著な変化がなかったのであります。 '93年総務庁「同和地区実態把握等調査」の結果にわれわれはがっかりしたというよりむしろ大きなショックを受けました。しかも運動体として「トリプルショック」でありました。
 一つめのショックは、部落民の被差別体験の多さです。「調査」で3人に1人が「被差別体験あり」と告白しています。細かく分析すると、調査のあった93年から溯ること10年の間に奈良県内で約5000件、毎年約500件の差別事件があったということになるのです。
 二つめのショックは、部落民が差別に真正面から向き合えていないことです。応々にしてわれわれは部落差別と唐突にでくわすものであります。そのとき「相手に抗議した」のが20%にすぎず、「黙って我慢した」とするものが46%強で最も大きな割合を占めているではありませんか。日本人の人権意識を識るための同様の調査で、人権侵害をうけたとき「黙って我慢する」と答えたものの割合が6%位であったことと比較して、その違いに言葉にできないほどのショックをうけました。
 三つめのショックは、われら運動体が差別問題の解決をめぐって部落大衆から頼りにされていない現実を見せつけられたことです。部落差別と遭遇して「黙って我慢した」ものが46%強で、「民間団体に相談」したものはわずかに4%強(奈良県2%)にすぎなかった事実は何をわれわれに語りかけているのでしょうか。 '65同対審「答申」路線を忠実に推進し"ムラぐるみの運動"を呼びかけ、水平社創立以来最大最強の組織建設を成し遂げてきたはずであります。税や融資、生活資金や奨学資金、就職や住宅等々の相談をわが運動体に持ちこむけれども、肝心要の差別問題の相談相手として頼りにしないとする部落大衆の選択をどう受けとめるのかが問われてきました。
 周辺の人々の意識が変わっていないことも問題です。しかし、それ以上に部落大衆の差別との向き合い方が曖昧で弱々しいこととわれら運動体が本質的に部落大衆の信頼をひき寄せられていない現実こそが深刻に問い直されねばなりません。口惜しくもつらいことではありましたが、この「トリプルショック」をうけてわれわれは自らの運動を根本から見直す道を選びました。この惨憺たる現実から目をそらし、自らの運動体を蝕む腐敗と堕落を自浄する力をなくした恥知らずのグループはどうでしょう。相も変わらずダラダラと、しかし、欲得だけは忘れずにいつもの道をあてもなく歩き続けるに違いありません。

  「① '65同対審「答申」は、近代社会における部落差別とは"市民的権利と自由の侵害に他ならない"と規定し、わが国の産業と経済がもつ「二重構造」と前近代的な社会風土や非合理的な偏見等がこれを支えてきたと根拠づけてきました。そして、同和地区住民に就職と教育の機会等を完全に保障し、同和地区に滞溜する停滞的過剰人口を近代的な主要産業の生産過程に導入することにより生活の安定と地位向上をはかることが、同和問題解決の「中心的課題」であると指摘したのであります」。ここには日本共産党同様に、近代化論から、停滞的過剰人口を「わが国の産業と経済がもつ「二重構造」と前近代的な社会風土や非合理的な偏見等がこれを支えてきたと根拠づけてきました」と前近代的なものと位置付けている。今日のワーキングプア問題に明らかなように、停滞的過剰人口あるいは相対的過剰人口は、近代的二重構造に根ざしている産業編成と労働階層の問題であり、その下層に置かれ、労働差別を受けているのであって、前近代的な差別ではない。部落はここに組み入れられたのである。つまり部落差別意識は、労働差別とダブっているのであり、労働差別は今も再生産されつづけているのである。

  かつて解放教育は、差別に負けない主体を育てることを目標としていたが、「近代的な主要産業の生産過程に導入する」ための受験教育に変貌していった。アメリカの公民権運動でも似たような事態が起きた。その結果、同朋の境涯よりも白人支配層に近づいたライス国務長官のようなエリートを生み出すにいたった。「近代的な主要産業の生産過程に」入った若い人々は、部落を出て行った。すでに1980年代には、部落の空洞化、高齢化が部落外の地域より急速に進んでいることが、師岡祐行氏などから指摘されていた。

  『提言』は、「1980年代の後半から、部落解放同盟は第3期の部落解放運動の展開を呼びかけている。その中で、全国水平社の時代の運動を第1期とし、この時期の運動の基本が糾弾闘争にあったと規定している。戦後、水平社運動を継承して直ちに再建された部落解放全国委員会から1955年に部落解放同盟と改称し、「同対審答申」や特別措置法を武器とした運動を第2期としている。この時期の運動の形態が行政闘争であったと位置づけている。その上で、第3期の部落解放運動の特徴は、国内外における共同闘争を運動の基本形態にすることを提唱している」としている。

  しかし、こうした区分はやや恣意的である。確かに水平社の運動が、糾弾闘争を基本としたのは確かだが、『提言』が書いているように、労働運動や農民運動などにも参加し共同闘争をも行っていた。第二期についても、「狭山闘争」という国家権力に対する差別糾弾闘争は運動の大きな柱であった。もちろん、糾弾闘争は数多く行われていた。問題は第3期の基本とされている反差別共同闘争で、80年代後半から解放同盟が提唱しているのに、それから20年以上たっているにもかかわらず広まらないのはなぜかということである。

  『提言』は、「この第3期の運動の提起は、基本的には有意義なものとして評価することはできるが、現実の部落解放同盟の運動を見たとき、第2期にとどまっているところが少なくない。このため、部落解放運動が人間の尊厳を基軸においた人間解放をめざすものであることを踏まえて、第3期の運動の内容をさらに明確にし、魅力ある運動の創出をはかる必要がある」と言っている。そして以下を提言する。

  「..今後、部落差別撤廃に向けた取り組みを実施する際、部落の近隣地域の要求実現と結びつける視点を重視し、さらにはより広範な市民社会の中でさまざまな人権課題に取り組む人々との連携を強め、人権のまちづくり運動として展開していくこと。部落解放同盟は、地域の共通の課題を結びつけ、ひとつの運動に発展させるコーディネーター的役割を果たすこと。
..人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(人権教育・啓発推進法)の具体化や活用、悪質な差別や人権侵害の禁止と被害者の効果的な救済などを可能とする法制度の整備をはじめ日本における人権法制度の確立に向けて積極的な役割を果たしていくこと。とりわけ、マイノリティ諸団体との意識的な連携を深め、マイノリティの視点からの反差別・人権政策の提言活動を強化すること。
..アジア・太平洋地域における差別撤廃と人権確立、さらには国連の差別撤廃や人権確立に向けた取り組みとの連携を強化すること。このため、反差別国際運動(IMADR)などとの連帯を強化すること。
..部落の歴史、部落解放運動の歴史を掘り起こし、部落と部落解放運動が日本社会の中で果たしてきた積極的な役割を明らかにすること。また、部落が担ってきた産業や被差別民が創造してきた文化を明らかにし、さらに発展的に創生していくこと。
..部落の中での相談活動を重視すること。高校や大学、さらには大学院への進学を高めるとともに、社会のさまざまな分野で活躍する人材を育てることに力を入れること。」

  「部落解放同盟は、地域の共通の課題を結びつけ、ひとつの運動に発展させるコーディネーター的役割を果たすこと」というあたりにうかがえる部落中心主義的な発想は、はたしてさまざまなアイデンティティが存在する地域や社会や世界の中で受け入れられるだろうか? 『提言』全体にある歴史=アイデンティティという認識は、複数の多様なアイデンティティが並存している世界において、排他的になりはしないだろうか? その点で言えば、『提言』が「被差別部落において困難をかかえた底辺層の人びとを数多く救済してきたことは、部落解放同盟の誇りとすべきところである」と述べているように、部落はどのような人々に対して開かれていたかということが重要であろう。アイデンティティ論については今、構築主義派からの議論があるので、それも見ていく必要があろう。

  2.運動論の再構築

  ①魅力ある運動の創出

  従来、部落解放同盟の大会や諸集会では、「兄弟姉妹の皆さん」という呼びかけが行われていた。これは、全国の部落と部落民がおかれてきた差別の歴史と、共通した被差別の実態を基礎に形成されていたアイデンティティであったと言えよう。
しかしながら、従来のアイデンティティ形成を支えていた「共通した被差別の実態」が、これまでの部落解放運動の取り組みや同和行政の実施によって、大きく変貌してきている。この結果、部落解放同盟の組織の現状を直視するとき、同盟員の減少、とりわけ若年層の結集が少ないという重大な問題がある。
  言うまでもなく、これからの部落解放運動を担っていくのは、若手の部落解放同盟員である。早急に部落に居住する若手の部落民、部落から出て部落外に居住する若手の部落民に対する働きかけを強め、部落解放同盟への結集を呼びかけることが必要である。その際、部落民としての自覚、部落解放同盟員としての自覚はいかにすれば形成されるかを、しっかりと踏まえた取り組みが求められる。
個人なり集団のアイデンティティは、他者によってどのように見なされているかということを契機に自覚されることが少なくないが、積極的には、個人なり集団がおかれている生活環境やたどってきた歴史についての理解、個人なり集団が将来何をめざしているかということの自己認識などによって形成される。
  このため、部落と部落解放運動の歴史、部落と部落民が置かれている現状を明らかにし、それを系統的に学ぶとともに、新たなアイデンティティの確立のためには、魅力ある部落解放運動の創造が不可欠である。
  1980年代の後半から、部落解放同盟は第3期の部落解放運動の展開を呼びかけている。その中で、全国水平社の時代の運動を第1期とし、この時期の運動の基本が糾弾闘争にあったと規定している。戦後、水平社運動を継承して直ちに再建された部落解放全国委員会から1955年に部落解放同盟と改称し、「同対審答申」や特別措置法を武器とした運動を第2期としている。この時期の運動の形態が行政闘争であったと位置づけている。その上で、第3期の部落解放運動の特徴は、国内外における共同闘争を運動の基本形態にすることを提唱している。
   この第3期の運動の提起は、基本的には有意義なものとして評価することはできるが、現実の部落解放同盟の運動を見たとき、第2期にとどまっているところが少なくない。このため、部落解放運動が人間の尊厳を基軸においた人間解放をめざすものであることを踏まえて、第3期の運動の内容をさらに明確にし、魅力ある運動の創出をはかる必要がある。その際、少なくとも以下の諸点が考慮されなければならない。
..今後、部落差別撤廃に向けた取り組みを実施する際、部落の近隣地域の要求実現と結びつける視点を重視し、さらにはより広範な市民社会の中でさまざまな人権課題に取り組む人々との連携を強め、人権のまちづくり運動として展開していくこと。部落解放同盟は、地域の共通の課題を結びつけ、ひとつの運動に発展させるコーディネーター的役割を果たすこと。
..人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(人権教育・啓発推進法)の具体化や活用、悪質な差別や人権侵害の禁止と被害者の効果的な救済などを可能とする法制度の整備をはじめ日本における人権法制度の確立に向けて積極的な役割を果たしていくこと。とりわけ、マイノリティ諸団体との意識的な連携を深め、マイノリティの視点からの反差別・人権政策の提言活動を強化すること。
..アジア・太平洋地域における差別撤廃と人権確立、さらには国連の差別撤廃や人権確立に向けた取り組みとの連携を強化すること。このため、反差別国際運動(IMADR)などとの連帯を強化すること。
..部落の歴史、部落解放運動の歴史を掘り起こし、部落と部落解放運動が日本社会の中で果たしてきた積極的な役割を明らかにすること。また、部落が担ってきた産業や被差別民が創造してきた文化を明らかにし、さらに発展的に創生していくこと。
..部落の中での相談活動を重視すること。高校や大学、さらには大学院への進学を高めるとともに、社会のさまざまな分野で活躍する人材を育てることに力を入れること。

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