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アメリカ現代思想理解のために(8)

 次に、仲正氏は、「自由主義の逆説」というタイトルで、面白いことを書いている。

 氏は、第一次世界大戦前から、イギリスやフランスでは、社会主義政党は政権参加していることを指摘する。それに対して、アメリカでは、社会主義を明確に掲げる政党は、あまり大きな勢力にならなかった。アメリカ労働総同盟(AFL)と産業別労働組合会議(CIO)は、1930年代後半から、労資協調路線を取ったこともあって、労働運動へのマルクス主義の影響も限定的であった。ローズヴェルトの「ニュー・ディール」政策を進めた民主党は、西欧型の社会民主主義に近かったというのである。

 ただ、確かに、氏が言うとおり、それほど大きな勢力にはなれなかったけれども、コミンテルンに参加したことがあるアナキスト系の世界産業労働者連盟(IWW)があり、さらに、コミンテルンの統一戦線戦術を取ったアメリカ共産党が、「ニュー・ディール」連合内に一定程度浸透していた。

 ローズヴェルトの次のトルーマン大統領は、1947年3月、「武装した少数派、あるいは外圧によって試みられる征服に抵抗している、自由な人民を支援する」という形で、共産主義の封じ込め策(トルーマン・ドクトリン)を発表したのを機に、アメリカは「反共」思想の総本山になった」(35頁)。それを氏は次のように言い換えている。

 共産主義あるいはマルクス主義を思想的に許容することができない“自由主義国家”という矛盾した国家になったわけである。(35頁)

 アメリカは、49年にNATO(北大西洋条約機構)を結成して、ソ連・東欧の東側と軍事的に対決するようになった。48年から、非米活動委員会を中心に、マッカーシー共和党上院議員の告発を機に、「マッカーシズム」と呼ばれる共産主義者摘発運動、いわゆる「赤狩り」の嵐が起きた。「「自由の敵」を敵視しすぎた“自由主義”が思想的に一枚岩になろうとするあまり、ある面では極めて全体主義的な様相を呈する、という逆説的な事態が生じたわけである」(36頁)。このような逆説は、単なる偶然というわけではなく、必然的である。

 純粋に論理的に考えれば、「自由主義」の本質が、「それが本人の自由意志に基づく選択である限り、いかなる思想や世界観を持つことも許容し、干渉しないこと」にあるとすれば、かつての枢軸国のような復古的な全体主義体制や、ソ連の計画経済・社会主義体制のようなものを目指すことも、それが本人の自由意志に基づく選択であり、かつ他人の自由を侵害していない限り、自由主義的にはオーケーということになるはずである。
 「自由主義」の立場から、「枢軸国やソ連は、国家イデオロギーを個人に押しつけて、自由を抑圧している」と批判するこいとはできる。しかし、それを承知で枢軸国やソ連がいいと考える諸個人に対しては、その人たちがその思想に基づいて具体的に他人に害を加えない限り、「自由主義者」は、「全体主義者」の思想の自由を認めざるを得ないことになる。さらに言えば、もし仮に、ある国の住民の圧倒的多数が自発的に全体主義体制を選んだとすれば、それを自由主義者は否定することができない、ということになりそうだ。(36~7頁)

 こうした事態を、自由主義の逆説と仲正氏は名付けたわけである。このことは、ブッシュが、イラク戦争に際して掲げた大義「中東民主化」のスローガンを実際に実行して、民主的な普通選挙を行ったエジプトで、反米のイスラム原理主義のムスリム同胞団系の議員が大量当選するという事態になったことにも示された。アメリカは、王政のアラブ諸国と友好関係を結んでおり、イラクでは、事実上の占領体制、もっと言えば、事実上の軍政を敷いている。

 国内のマッカーシズムが一応鎮まった後も、マルクス主義という思想的なライバルと引き続き対峙し続けたアメリカ社会は、「自由主義とは、具体的にはどういう理想を擁護する思想か?」を自問せざるを得なくなった。こうした自由主義の逆説をめぐる緊張状態が、70年代以降のリベラリズム論議の原点になったと見ることができる。(37頁)

 つまり、自由主義が全体主義体制を作り出すという逆説に対して、どう対応するかをめぐる問題が、70年代以降、アメリカで問われたということである。もちろん、そこには、60年代の公民権運動、ベトナム反戦運動、学生運動、対抗文化運動(カウンター・カルチャー)などの社会運動、政治運動の波の影響ということもあったわけである。

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