アメリカ現代思想理解のために(19)
ハイエクやアーレントはそれぞれ違った文脈で、社会主義的な[解放→平等]の論理に抗して「自由」を擁護したわけであるが、そうした自由擁護論の大前提と して、社会あるいは政治的共同体(ポリス)を構成する市民たちが、自由に活動する機会を「平等」に与えられていることが想定されていた。その社会のメンバーとして認められていない人、同等のメンバーシップを与えられていない人にとっては、市場を中心とした自由な競争や、自由な政治的討論に参加することは 困難である」(64頁)。
ここで、「市場を中心とした自由な競争」と言われているが、先にも指摘したように、アメリカでは、戦前には独占体制が出来上がっており、成長を通じて、 あるいは、技術革新を通じて、市場を拡大し、その中で、新規の参加者が登場してきたのであり、さらに市場がいっぱいになる寡占状態に達すると、海外へと進 出していったのである。つまり、世界経済の成長が、そのような自由な競争の余地の拡大の条件であったわけである。もちろん、それに、技術革新によるイノ ベーションによる新規市場の新設ということもあった。しかし、このようなアメリカの「“市民に対して平等な機会を与える自由な社会”として自己理 解」(64頁)できた条件は失われてきている。それが、今年の世界経済の戦後初のマイナス成長予想が示している推理の結果の一つである。
しかし、南北戦争の結果、奴隷制が廃止され、黒人にアメリカ市民権が与えられるようになったが、差別はなくならなかった。女性を抑圧する家父長制と闘う フェミニズム運動、そして、20世紀になってようやく市民権を与えられるようになったインディオ・先住民族の解放運動、そして、アメリカの帝国主義性を示 すベトナム戦争に対する反戦闘争の高揚、これらは、「アメリカの自由」の具体的内容、実態を問うものとなった。
「これらの運動は、「自由」と「平等」の原理的な両立を志向するロールズらの現代的なリベラリズムが登場」(65頁)する背景となったと仲正氏は言う。
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