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アメリカ現代思想理解のために(21)

 黒人差別解放運動とともに60年代には、女性解放運動である「第二波フェミニズム」が盛んになる。第一波フェミニズムは、20世紀初頭の参政権獲得を中心とした運動で、共産主義者もこれに加わっている。有名なのは、ドイツのクララ・ツェトキン、ローザ・ルクセンブルグ、ロシアのコロンタイなどである。日本でも、「青鞜」グループがあり、山川菊江、市川房枝、アナーキスト系の伊藤野枝、金子ふみ子などが、この第一波フェミニズムに属する。しかし、その前に、19世紀ヨーロッパでは、男女同権論などが生まれている。その中では、作家のジョルジュ・サンドが有名である。

 日本では、男女平等思想自体は、鎌倉仏教などの中で生まれてはいる。もちろん、それはたんなる観念上の話だけであるが。明治維新後の男女同権思想では、福沢諭吉の形式平等論、津田塾大学を創設した津田梅子などがいる。これらはブルジョア的男女同権論に属する。それに対して、日本の第一波フェミニズムは、大正デモクラシー期に、社会主義やアナーキズムなどの影響も入っており、多様な潮流を含んでいた。アナーキスト大杉栄の場合、自由恋愛にのみ男女平等を見るというフォイエルバッハと同程度のものにすぎなかったが、それでも当時としては画期的であった。それは、大杉の人間観が、一面的で浅かったせいであると思う。現在のフェミニズムの議論では、自由恋愛主義の反省的捉え返しが行われている。言うまでもなく、このことは、恋愛という人間関係における感情生活を否定するということではない。それは、同時に家父長的な諸制度の解体、それには、当然、現在の家父長的家族制度の解体も含まれるわけだが、その他根本的な社会諸関係の全面的変革が必要であり、そのような前進的運動過程を伴う中でこそ、生き生きした生命力のあるものとなるということである。

 63年に、ペティ・フリーダンの『女らしさという神話』―邦題「新しい女性の創造」が出版された。同年、男女賃金平等法、翌年民権法が成立、66年には、フリーダンを会長とする「全米女性機構(NOW)」が結成され、ウーマン・リブが開始される。その要求は、憲法における男女平等権修正条項(ERA:Eqaul Rights Amendment)の制定、職場での男女平等、人工妊娠中絶合法化、保育所に対する連邦補助など、であるという。

 

第二波フェミニズムの運動は、発展していくにつれて、家父長的な家族制やセクシュアリティ(性の在り方)までも含めて男性中心主義的な西欧文化全般のラディカルな解体を標榜するグループが、「性」を中心に構成されるプライヴェートな領域に「政治」を持ち込むことに消極的なフリーダンらの主流派(リベラル・フェミニズム)と袂を分かつようになる。(70頁)

 ハンナ・アーレントが、公私の区別に固執することで、リベラル・フェミニズムの側に立っていたことは、リトル・ロック事件に対する見解から明らかである。それに対して、性の政治化とも言うべき思想が、心理学者のライヒらによって唱えられた。こうした公私の領域の区別にこだわったのが、フーコーであり、彼は、その政治性、あるいは技術の問題を追求していき、この区別そのものがどのようにして形成されるかを問題にし、そこにおける権力の作用を暴いていったのである。

 西欧語において、男性形、女性形のあるという言語のレベルの問題がある。もっとも英語には、人称以外にはそういう区別があまりないが。日本語では、もともとは、書き言葉の上では、男女の区別はあまりなかったが、それは、そもそも、日本の場合、書き言葉は、公的な行為の記録としてあったからである。しかし、『万葉集』においては、女性歌人の歌も多く載せられており、西欧ほどには、家父長制はこの領域では明瞭に区別されていない。むしろ、もちろん、儒教の影響が強かった上層階級では、家父長制が強いことは明らかだが、それが一般に広がるのは、むしろ、明治維新以降の近代化の中で、男言葉、女言葉が明瞭化されて以降ではないだろうか。軍国主義下では、軍人=男が、社会的価値の中心となったので、田舎で、年配の女性は、自分のことを「俺」と呼んでいたりするのは、そのせいではないかと思われる。男が戦場に駆り出された後の穴埋めとして、女性が軍需工場その他に駆り出され、労働に従事したことは、アメリカで黒人の兵隊や軍需工場への戦時動員が権利意識を強化したように、女性の権利意識を強めたのであろう。戦後、GHQの民主化政策の実施の中で、市川房枝らの女性参政権獲得運動は、普通選挙実施として実現し、新憲法下の第一回普通選挙では大量の女性議員が誕生した。

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