« アメリカ現代思想理解のために(22) | トップページ | アメリカ現代思想理解のために(24) »

アメリカ現代思想理解のために(23)

1969年に大統領になった共和党ニクソンは、「ニクソン・ドクトリン」を出して、ベトナム戦争から段階的に手を引く方針を明らかにした。そして、「社会主義陣営」とのデタント(緊張緩和)に動いた。72年2月には、訪中して、「米中共同声明」を出して、米中国交正常化に乗りだした。5月には、ソ連共産党書記長のブレジネフと会談し、弾道迎撃ミサイル制限条約(ABM)と戦略兵器制限交渉(SALT Ⅰ)に仮調印した。

 このように、リベラルと言われた民主党政権が、ベトナム戦争にのめり込んでいったのに対して、保守色の濃い共和党政権の方が、対「社会主義」陣営との対話に積極的となるという事態が生まれたのである。69年には、政府と契約を結んだ事業者にマイノリティの労働者を雇用することを義務づける「改訂フィラディルフィア・プラン」を実行し、アファーマティヴ・アクション(積極的差別是正策)を本格化させた。その他、72年、生活困難者に現金給付する補足的保障所得(SSI)制度を導入。非白人や貧困層のための職業訓練プログラムを推進。69年全米環境政策法、70年大気清浄化法制定。73年には、「ロー対ウェイド」裁判で、連邦最高裁が中絶権を認める判決を出した。

 こうして、「「保守」が“左”に寄ってきてお株を奪われたせいで「リベラル」の思想的なアイデンティティが曖昧になった」(81頁)。

 “弱者に優しく、異なる文化や考え方に対して寛容で、平和愛好的であること”を売りにしてきた「リベラル」は、自らの“リベラル”性の見せ場だったはずのベトナム問題で明確な統一的姿勢を示せなかったため、より深刻なアイデンティティ危機に直面することになった。リベラルの大義が見えなくなったのである(同)。

 戦争に対するリベラルの一部の、抽象的平和主義の問題性は、昨年末のイスラエルのパレスチナのガザでの虐殺攻撃の際にも現れた。アメリカのリベラルの一部は、強者イスラエルの弱者であるガザ市民への無差別虐殺攻撃に際して、強者と弱者を区別せず、等値して、ハマスとイスラエルの双方に暴力停止を呼びかけることで、事実上、イスラエルの蛮行を擁護する立場に立ったのである。それは、アメリカ政府自身が、当初から、双方の暴力停止を主張しながら、その実は、ブッシュ大統領、ライス国務長官共に、ハマスの暴力に対するイスラエルの自衛権を擁護したこととあまり変わりがない。現にあるものの規定である強者と弱者という概念、その現実を区別し、それらの相互関係を客観的に検討し、そして判断するのではなく、抽象的な平和についての空想的図式によって、これらを裁断し、それでことたれりとしているのである。

 イスラエルの主張する欺瞞を暴露し続けてきた早尾さんによれば、そうしたリベラル思想家のウォルツァーは、イスラエル側の犠牲者に対してガザのパレスチナ人犠牲者が圧倒的に多かったという非対称な事実に対して、量・数の多少は問題ではないと言ったという。量は、現実的な規定であり、量を無視したら、現実の多様性の一部を切り捨てることになる。それもわからないというのだろうか? いずれにしても、こうした言い方は、現実を捉えることよりも、なんらかの抽象的図式を現実に当てはめているに過ぎない。実際には、われわれは、まず感覚を認識の出発としているのであり、それが認識の基礎である。そして現実の概念を捉え、そしてそれと意志とを過程として統一する理念へと進むというのが認識の運動なのである。現実が汲み尽くせないがゆえにこれは終わり無き過程であり、ただ不断に過程としてあるのである。平和と暴力の関係についてもそうである。

 ハマスには、様々な面、多様性があり、歴史的な内容がある。その全面的評価が必要である。もちろん、ここで全面的というのは、理念として言っているのである。つまり、接近していく過程として言っているのである。パレスチナ人には、実力行使を含めたイスラエルに対する独立権、革命権、抵抗権がある。国際法的にも、例えば、国連決議違反をしているのがイスラエルであることは明確だから、なおさらそうである。イスラエルがすでに法を犯しているのであり、パレスチナを不法占拠しているのである。それに対して、パレスチナ人に合法的手段しか認められないというのは不条理である。

 かくして、リベラルは、絶対的な価値などではなく、相対的な価値でもあり、歴史的な、そして現実的なものとして、変化し、状況によって、意味合いが変わるものであるという弁証法家なら当然の姿を、この時期、はっきりとさらけ出したわけである。

|

« アメリカ現代思想理解のために(22) | トップページ | アメリカ現代思想理解のために(24) »

思想」カテゴリの記事

アメリカ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: アメリカ現代思想理解のために(23):

« アメリカ現代思想理解のために(22) | トップページ | アメリカ現代思想理解のために(24) »