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アメリカ現代思想理解のために(29)

 仲正氏は、ロールズが、第二原理をわざと抽象的に定義したのではないかと言う。ロールズは、その後、(a)(b)二つの条件を置いていて、さらに、それぞれに二通りの解釈を示したという。

(a)には、①「効率性原理 principle og efficiency」と②「格差原理 principle of difference」、(b)には、①「才能に対して開かれているキャリアとしての平等」と②「公正な機会均等としての平等」(95頁)

 ロールズは、厚生経済学の使って、説明しているという。つまり、①は、古典的な功利主義の発想であり、②の「格差原理」は、格差是正的な資源配分の原理であるという。これ自体、古典経済学の中で言われていることである。そして、第二原理を次のような形に直す。

 社会的、経済的不平等は、それらが、(a)最も不利な立場にある人の期待便益を最大化し、(b)公正な機会の均等という条件の下で、全ての人に開かれている職務や地位に付随する、ように取り決められているべきである。(同前 64頁)(96頁)

 ここで、社会的職業や地位について公正な機会均等があり、個人の自由競争が認められる。そしてその結果できる不平等は、価格システム、税制、公共サービス、所得補助(負の所得税)などの諸制度によって是正され、「格差原理」を満たすところに落ち着くと、仲正氏は解説する。「要は、競争力のある人間にできるだけ稼ぎ、社会を豊にしてもらって、その利益が弱者に還元されるようなシステムを作るということである」(同)というわけである。その場合に、働くとされているのが、(a)なのだが、これをみんなが同意してくれるかどうかはわからない。そこで、ロールズは、「無知のベール」を仮想する。

  これは、社会的地位。階級上の地位、社会的身分、資産や能力の運、知性や体力等、善の概念、合理的な人生計画に特有の事柄、心理も知らないという状態である。つまり、無心ということだろう。そうすると、合理的な人間であれば、最も不利な立場にある人が何とか生き残れるように配慮した資源配分の仕組み(格差原理)を公正と考える(99頁)というのである。

 そして、仲正氏は、この抽象的議論の種あかしをする。「無知のヴェール」に部分的に似た状態、そうした状態に対応する制度は、保険や年金のような将来の「リスク回避」のための仕組みであると氏は言う。つまり、現在は、社会的弱者でなくとも、将来そうなるかも知れないという可能性を考えるのは合理的人間であれば当然であり、だからこそ、「格差原理」に似た制度に合意しているというのである。それは、「情けは人のためならず」ということわざを理論化したようなものであると氏は言う。これは、社会的な原理であると同時に保険や年金の原理だというのである。将来のために、現在の消費を節約する。それが資本だと、そして、その精神原理が、プロテスタンティズムだと、社会学者マックス・ウェーバーは言った。それは、合理的人間心理というものだろうか?   

 かくて、正義の概念がもつ望ましい特徴は、それが人々のお互いへの尊重(respect)を公共的に表現しているということにある。こういうふうにして、人々は自身に価値があるという感覚を確保する。(・・・)私は、この考えのもつ倫理的妥当性によって当事者が動かされると言っているのではない。しかし、彼らがこの原理を受け入れるのには理由がある。というのは、互恵的有利性のために不平等を取り決め、平等な自由という枠組の中に自然環境と社会環境のもつ偶然性の利用を抑えることによって、人々は、まさに自らの社会の構成(constitution)において、相互尊重を表明するからである。こうして、彼らは、そうするのが合理的であるので、自尊心を保証する。(同前、135頁:一部改訳)(102頁)

 ここで指摘しておかねばならないのは、ロールズが、合理的人間というかたちで、大陸的な合理主義思想とイギリス的な経験主義的な功利主義とを総合しようと試みたことである。それがうまくいったかどうか、あるいは、それはそもそも可能なのかどうかという問題が残されている。ハンナ・アーレントもまたそうした試みを追求したとも言えるが、やはり、彼女は、大陸的合理主義の系譜の中にあったように見える。つまり、ヒューム主義に対するカントの立場に止まったのではないだろうか。

 これで、同書のⅠリベラルの危機とロールズの部分を終えた。Ⅱ、Ⅲと続くわけだが、それを、大きくは、ロールズの議論の枠内で行われているというように仲正氏は書いているようである。ここからは、特に、ひっかかるところを取り上げていくことにする。

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