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アメリカ現代思想理解のために(30)

 ここまでで、ロールズの基本的な考えは、わかったと思う。それに対して、様々な反対論が出たのは当然である。まず、ロールズが『正義論』を出すまで支配的だった法実証主義があった。これは、おそらく、実定法主義とも呼ばれるもので、法と道徳を切り離す考え方である。それは、仲正氏によれば、ウイトゲンシュタインの影響を受けた分析哲学者ハーバート・ハートらの影響を受けた部分である。つまり、法は、制定の根拠としての道徳や原理などとは切り離して考えるというものであったという。

 他方で、リバタリアンという人たちで、仲正氏は、自由至上主義者と訳している人たちによる批判がある。それは、「あくまで「自由」それ自体を重視し、平等や正義といった別の要素を“自由主義”に持ち込むべきではないとする立場」(121頁)からのものである。その中でも、ノージックは、1974年に『アナーキー・国家・ユートピア』という本を書いて、自然状態を想定して、国家の存在を問うという議論を展開しているという。そして、ノージックは、「「アナーキー」から始まって「最小国家」に至までの流れは、自然な市場的プロセスとして説明できると主張する」(125頁)。そして、ロールズの「配分的正義」を批判したという。彼が、保有物に認める正義は、①それまで誰にも保有されていない物の保有に関する獲得の正義、②ある人から別の人への保有物の移転に関する移転(譲渡)の正義、③①と②について不正が発生した時にそれを正す矯正の正義、の三つだけだという。なるほど、しかし、①に関して、アメリカは、インディオに保有物の正義を認めず、勝手に、無所有地と決め付けて、アメリカ大陸で、土地を奪った。②については、保有物の移転と同時に価値移転が行われることを無視している。商品交換の正義は、等価交換の正義であって、たんなる物の持ち手移動ではない。なんともお粗末な議論である。したがって、以下のところも、まったくのロビンソン・クルーソー物語同様の空想物語である。

 最小国家は我々を、侵すことのできない個人、他人が手段、道具、方便、資源、として一定のやり方で使うことのできないもの、として扱う。それは我々を、個人としての諸権利をもちこのことから生じる尊厳を伴う人格として扱う。我々の権利を尊重することで我々を尊敬をもって扱うことによって、それは我々が、個人としてまたは自分の選ぶ人々とともに、同じ尊厳をもつ他の個人達の自発的協力に援助されて、自分の生を選び、(自分にできる限り)自分の目的と自分自身について抱く観念とを実現してゆくこと、を可能にしてくれるのである。どんな国家や個人のグループも、どうしてこれ以上のことをあえてするのか。また、どうしてこれ以下しかないのか。(嶋津格訳『アナーキー・国家・ユートピア、木鐸社、1992年、540頁)(127頁)

 ここで、ノージックは、侵すことのできない個人を、物件、すなわち、上の①、②の正義の主体として表象していると考えられる。すなわち、ここで、手段、道具、方便、資源と言っているのは、物の所有者としての、所有物に伴うものとして、人格を捉えていることを示しているということである。なぜなら、それ以外に、彼が正義を認めていないからである。それに、彼は、一定のやり方では、そのように扱かえないと言っているが、それは、別のやり方ではそう扱っていいと言っていることになるからである。①と②は無所有物の所有権の発生と所有物の移転の正義である。あとは、その正義を守る正義があるだけである。そうすると、この場合の、自由というもの、あるいは人格というもの、あるいは諸権利というものは、単なる要請、願いでしかないということになる。つまり、最小国家が、所有と交換の正義を守ってくれれば、あとは、みんな自由に生きられるという主張だが、まさに、そうした正義の支配する世界で、不自由が起きているのである。また、彼は、その最小国家は、警備会社のように、みんなの費用で賄われると言っている。多く払った者は手厚く守られるというような不正義は生じないのだろうか?

 D・フリードマンは、私有財産権を基本的な人権として最重視する。彼は、裁判を民間の仲裁制度に変え、刑事事件には、民間警備会社が対応するなどと言ったという。イラク戦争で、民間軍事会社とでも言うべきものが、いっぱい入って、戦費で大もうけしたことがあったが、それは、アメリカが産軍複合体化していることを反映したものにすぎない。当時の副大統領が幹部を務める民間会社が、軍需を多く受注したのはそれを示している。

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