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普天間、尖閣諸島、「北方領土」

  10月3日の毎日新聞の社説二本と論説の一本が、現在、日本の近くで起きている外交問題について書いている。互いに関連していて、しかも、すべてが11月11日に横浜で行われるAPECで焦点化しそうな問題である。

 まず、「北方領土」問題でのロシアの動きである。ロシアのメドベージェフ大統領が中国との関係を強化していることが、第二世界大戦終結65周年に関する共同署名を行ったことで明らかになった。中国の漁船と日本の海上保安庁巡視船が衝突した事件をめぐって、このところ関係がぎくしゃくしている中で、ロシアが中ロ同盟の強化をはかろうとしているのである。そして、メドベージェフ大統領は、近く「北方領土」を訪問すると語ったという。それを、APEC参加のための訪日に合わせて行う予定だというのだから、これは、日本への挑発行為と見なされても仕方がないことだし、たぶんそのへんは意図されていることなのだろう。

 それに対して社説は、「ロシア(旧ソ連)は日ソ中立条約を一方的に破棄して北方領土に侵攻し不法占拠を続けている。歴史を歪曲しているのはどちらの方か、と問いたい」と反発しているが、この場合の歴史とは明治維新以来の近代史のスパンでしかない。それ以前、そこは、日本でもロシアでもなかった。だが、そこは無人島というわけではなく、先住民たちが生活していたのである。社説は、歴史と言いながら、歴史のごく一部を一面的にしか見ていない。それで、歴史認識問題について、このように断言するというのは余程の無神経なのか、感覚が麻痺しているのか。

 このような領土問題において、衝突のもとになっているのは、双方の支配層の利害であって、大衆の利害ではない。資源その他の経済的利害の要求が、領土要求というかたちをとって主張されているのである。「北方領土」は、ロシアという国家、日本という国家、いずれのものであってもどちらかの支配層の利益のためのものであって、しかも、先住民のことなど視野の外で争われていることなのだ。そこは、本質的には誰にも属すものではないが、歴史的には先住民のものである。ロシアも日本も、先住民のものは先住民に返すべきだ。だから、双方の大衆は、こうした領土争いに、どちらを支持するかなどという、自分のためにならない選択に巻き込まれることなく、双方が領有権を放棄すること、譲歩し合うことを主張すべきなのである。

 尖閣諸島問題と普天間基地問題は、東アジア安保をめぐる重要な問題で、相互に強く結びついた問題だ。尖閣諸島問題で、「軍事大国、経済大国となった中国とどう向き合っていくのか。私たちも今後、議論を重ね、より具体的な提案をしていきたいと考えている」と社説は言う。しかし、中国の経済成長に依存している日本の経済界、そしてアメリカも、中国とはあまり波風を起こしたくないと考えているだろう。しかし、ナショナリズムは、近代国民国家を支える宗派であるから、信者が反中国感情をもって「法の範囲内」で反中国活動を行うことを否定するわけにもいかない。そんな板挟みの心境を、この社説は表しているのだろうか。

 普天間基地移設問題で、日米共同宣言を結び、その中で、辺野古移設を決定した日本政府に対して、沖縄からの不信の声が大きくなっている。沖縄の米軍の存在が、東アジアの安保にとって依然として重要であるという認識が菅政権をも深く捉えている。そして、この論説の筆者をも。そこで、判断停止状態に陥った筆者は、「政権が本腰を入れて沖縄との和解を図ろうとする姿勢は見えてこない」と外在的に批判するに終わり、無力な駄評論をするだけで終わっている。

 尖閣諸島は歴史的に琉球の人々が立ち寄り、一時は人も住んでいたという記録もあるという。日本が尖閣列島を領有したのは明治のことである。結局は、資源問題がこの領有権争いのもとであって、前原外務大臣は、中国に世界が百パーセント依存している希少資源があることに問題があると述べているように、いろいろなところで、日本もアメリカも中国に依存しているのである。日本は、日米同盟に安保の基礎を置き続けると決めたが、アメリカは米中同盟に重きを置いているのではないだろうか。

 かくして、時代は、新たなステージへと入りつつある。その幕を切ったのは、今や誰の目にも明らかなように、沖縄の人々のこの間の自己解放の大衆運動であった。「新しいぶどう酒は古い革袋には入れられない」のであって、人も新しく生まれ変わらなければならないし、新しい社会、新しい人となって、新しい時代を切り開く主体とならねばならないのである。近代国家的固有の領土争いの不毛なことは明らかだ。新しい沖縄と向き合う新しい人として、生まれ変わらなければならない時がきている。

  社説:北方領土問題 見過ごせぬ大統領発言

 ロシアが北方領土問題で強硬姿勢を見せている。メドベージェフ大統領は中国の胡錦濤国家主席と第二次世界大戦終結65周年に関する共同声明に署名したのに続き、近く北方領土を訪問すると明言した。

 旧ソ連時代を通じ北方領土を訪れたロシアの首脳はおらず、訪問の意向を明らかにした首脳も初めてだ。ロシア大統領府筋は、大統領が11月に横浜で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)に出席するのに合わせて訪問する可能性を示唆している。

 訪問を断行すれば日露関係の悪化は避けられず、領土交渉にも影響が及ばざるをえない。大統領発言を見過ごすわけにはいかない。

 中露の共同声明は「日本の中国侵入」に言及し「歴史の歪曲(わいきょく)を断固非難する」と述べている。沖縄県・尖閣諸島の領有権を主張する中国と、北方領土を実効支配するロシアが連携し領土問題で日本をけん制する狙いがあるようだ。

 だが、この歴史認識には同意できない。ロシア(旧ソ連)は日ソ中立条約を一方的に破棄して北方領土に侵攻し不法占拠を続けている。歴史を歪曲しているのはどちらの方か、と問いたい。

 ロシアはこの夏、日本が1945年に第二次大戦の降伏文書に署名した9月2日を大戦終結の記念日とする法律改正を行った。これも北方領土の実効支配を正当化しようとする動きと関係しているのだろう。

 メドベージェフ大統領は訪中後、極東を訪れ、北方領土を含むクリル(千島)列島について「今回は飛行できない天候だったが、近い将来、必ず訪れる」と語った。これに対し前原誠司外相が「大統領が訪問すれば日露関係に重大な支障が生じる」と警告したのは当然である。

 メドベージェフ大統領は昨年2月、サハリンで麻生太郎首相(当時)と会談し「独創的で型にはまらないアプローチ」によって交渉を加速させることを確認した。今年6月の菅直人首相との会談では、首脳を含めた高いレベルの接触を通じ前進を図っていくことで合意している。一方的な北方領土訪問の表明は信義に反する。

 北方領土四島の帰属問題を解決して平和条約を締結するという日本に対し、ロシアは第二次大戦の結果として四島はロシアに移ったと主張している。双方の隔たりは大きい。

 日露関係を発展させることは東アジアの安定に必要であり両国の利益にもなる、と大統領も認識しているだろう。ならば、北方領土訪問がどういう意味を持つかはわかるはずだ。日露関係の重要性を踏まえた冷静な判断を求めたい。

  社説:論調観測 緊張続く日中 「ではどうする」が肝要

 沖縄・尖閣諸島付近で起きた中国漁船による衝突事件で日中間の緊張が続く中、臨時国会が始まった。召集前日には衆院予算委で集中審議も行われ、国会は当面、この問題が大きな焦点となりそうだ。各社の社説はどう書いたか。やはり今週もこれをテーマにしたい。

 集中審議で野党が一斉に追及したのは検察当局が中国人船長を拘置期限前に処分保留で釈放したことについて「政治介入」があったかどうかだった。

 菅直人首相らは「介入は一切ない」と繰り返したが、毎日はまず中国側の強硬姿勢を批判したうえで、首相らの答弁も「とても納得できるものではなかった」と総括。「仮に、政治による指示が一切なかったのが本当だとしたら、逆に政府の外交に対する構えに不安が募る」と書き、改めて菅政権の危機感の乏しさを指摘した。

 政治介入の有無を追及するのは「不毛な攻防」と評した朝日は「釈放が高度な政治判断であったことは疑いがない」と断じ、むしろ首相が「今回の対応についての全責任を自分が負うと言い切らなければ、国民の納得は得られまい」と書いた。

 産経は相変わらず激しい。「中国の揺さぶりを受けて厳正な法律の適用・執行を取りやめたのは国家の恥辱」と批判し、自民党が要求するように検察関係者を証人喚問し、検証するのが最優先だと主張している。

 これに対し、読売は野党の追及は「一応理解できる」としながらも「単なる政府批判の繰り返しは、菅政権の内外の信頼を貶(おとし)め、中国を利するだけで結果的に国益を害しかねない」と批判を野党にも向けている。

 各紙の主張に違いはある。だが、共通して指摘しているのは、一体、菅首相は日中関係をはじめ、この国の外交をどう進めようとしているのか、まるで見えないという点だろう。

 漁船衝突事件について、これまでの答弁を簡単になぞっただけだった1日の所信表明演説も、そんな不満が残った。

 毎日は「首相が言う『国民全体で考える主体的な外交』を目指すなら、より道理にかなった説明で理解を求めるべきではないか」と書き、朝日は「懸念を払拭(ふっしょく)する『菅外交』の全体像は示されなかった」と書いた。

 無論、野党も、そして私たち新聞も批判だけをしていれば済む時代ではない。軍事大国、経済大国となった中国とどう向き合っていくのか。私たちも今後、議論を重ね、より具体的な提案をしていきたいと考えている。

 【論説副委員長・与良正男】(毎日新聞 2010年10月3日)

  反射鏡:普天間、辺野古を見て考えた「沖縄との和解」=論説委員長・冠木雅夫

 「冷戦後の世界への対応にもっとも出遅れたのが日本である」。国際政治学者の故・高坂正尭(まさたか)氏は「日本が衰亡しないために」と題する論文で指摘していた(「文芸春秋」1993年1月号)。「日本が抱える課題は、他の諸国とくらべてもきわめて大きな困難を伴うことが予想される」「もっとも深刻なのは、戦後半世紀の間、日本の政治が外交と安全保障という問題について、ほとんど完全に棄権してきたことである」

 悲観的予想は残念ながら的中している。民主党政権も新しい「困難」を生み続けている。

 鳩山由紀夫前首相は「反米・離米」志向かと憶測されるほど外交基軸の揺らぎを示した。沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場移設問題では「国外、最低でも県外」発言に一度は夢を託した沖縄県民の心を傷つけ、民主党政権への怒りを招いた。

 政府や本土への不信を増幅させた沖縄との関係をどう修復するか。政府が「沖縄との和解」に全力で取り組むことなしに、普天間も日米関係も打開の道は見えないだろう。

 先日、沖縄で普天間とその移設予定地である名護市辺野古の浜辺を間近に見た。折しも11月の知事選で再選を期す仲井真弘多知事が同県議会で普天間の「県外移設」を明言した日だった。同県石垣市の尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件で、日中両政府への抗議決議を全会一致で可決したのもその日である。

 辺野古の浜に向かう道端に看板があった。「海浜はみんなの宝 基地とゴミは持ち帰りましょう。名護市環境衛生課」とある。もちろん「基地と」は落書きである。案内してくれたヘリ基地反対協共同代表の安次富浩さんは「私たちが落書きしても市は何も言ってこない。市の人も理解してくれているのかもしれません」と説明した。

 基地新設予定地は米軍のキャンプ・シュワブ内である。浜辺の有刺鉄線が境界線を示している。手前に「名護はジュゴンの保護区にしよう」という反対派の看板、向こう側には「米国海兵隊施設 許可なく立ち入った者は日本国の法令により処罰される」という立て札がある。9月末とはいえ30度を超す暑さで近くの森からセミの声が響く。V字形滑走路の根元方向から埋め立て予定の海が見える。雲が切れて日が差すと鮮やかなエメラルドグリーンに変わった。

 車で小一時間南に向かい、沖縄戦の激戦地として知られる嘉数高台の展望台に上る。眼下に見える普天間飛行場を囲んで住宅が密集している。9万人以上が住む約20平方キロの市域だが、3割以上を基地が占める。展望台で説明してくれた伊波洋一・宜野湾市長は04年の米軍ヘリ墜落事故後も依然として続く危険な実態を強調した。話の最中にも周辺の上空をヘリが飛び続けた。ここの危険除去が最優先課題であることは間違いない。

 仲井真知事に対抗して出馬を表明している伊波氏は普天間飛行場の米本国やグアムへの撤退を求めている。

 県民感情はこの1年で大きく変わったという。「沖縄は本土に差別されている」という意識がしばしば語られるようになった。戦争で大きな犠牲を強いられ、本土復帰後40年近いにもかかわらず、在日米軍基地の4分の3が集中し大きな負担を強いられている。普天間移設では訓練移転も含めて沖縄以外の候補地を模索したというが、結局本気で説得しなかったではないかという反発である。政界では保守系も含めて「県外」が大勢になっている。

 辺野古移設が実現すれば普天間はじめ嘉手納以南の人口密集地区の施設・区域が返還され負担はかなり減るというのが日米合意の趣旨だが、説得を受け入れる状況ではない。沖縄の民主党員・サポーターの7割が党代表選で小沢一郎氏を支持したのも、「県外」を実現できるのではという期待からだろう。

 東アジアの高まる波は日本に押し寄せている。尖閣問題で示された中国の「力の外交」にどう対処するか。後継指導者を決めた北朝鮮が今後どう動くのかも予断を許さない。

 日米同盟がいかに重要かは尖閣問題でも再確認されている。だが、政治的に安定した基地がなければ同盟も揺らぐ。「現実主義外交」を掲げる菅直人首相、先の高坂氏に師事した前原誠司外相らによって外交の立て直しは可能だろうか。普天間問題では日米合意の実現に向け「誠心誠意説明していく」(所信表明)というが、政権が本腰を入れて沖縄との和解を図ろうとする姿勢は見えてこない。

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