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様々な疑問

 知り合いより借りた『誰も書かなかった石原慎太郎』(講談社文庫)という佐野眞一氏の書いたノンフィクションを読む。それによると、石原慎太郎の父親の石原潔は、四国の旧宇和島藩の八幡浜の隣の長浜という港町で生まれた。彼は、旧制中学を中退して、近くの出身の山下亀三郎が一代で大海運会社にした山下汽船に入り、後に、関連会社の重役になっている。彼は、北海道の小樽で南樺太の木材運搬の仕事に関わり、最後は神奈川県の逗子に住んだ。石原家の先祖は武田の残党で、伊予に移ってからは服部と名乗っていたという。そこから分かれて石原家に入ってから石原になったという。潔が山下汽船に入社した当時、店童という身分で、「小学校・高等小学校を卒えたばかりの者。いずれも十四、五歳どまりであった」(40ページ)。仕事は、掃除からなにからの雑用一般で、数年は宿舎と食事を支給されるだけで給料はない。丁稚みたいなもんである。潔が樺太貿易に携わった頃の小樽は新開地で各地から流れて混んできた新参者ばかりの街だったようだ。そこから、伊藤整などの文学者や水ノ江滝子のようなスターも生まれている。もちろん、この地で少年時代を過ごした石原慎太郎・裕次郎がいる。佐野眞一氏は、この書で、かなり詳しく資料をあたったり、現地を踏査したり、インタビューも取ったりと丁寧に細かく取材しており、時代状況、風土、人間関係、特に親との関係とか、友人関係とかから、石原慎太郎像を浮かび上がらせようと努めている。『週刊朝日』の橋下大阪市長についての連載も、おそらく同じように丁寧に取材していると思う。初回だけで、全体を判断できるものではない。

 中島嶺雄氏『中国現代史』(有斐閣)、安丸良夫氏『日本の近現代史』(平凡社)、民衆史研究会『民衆史の課題と方向』(三一書房)に入る。中国あるいは東アジアを考える上で、アジア性の解明が欠かせないと思っている。例えば、「天」という概念をどう理解したらいいのか。「一君万民」思想とは。「万世一系」思想とは。どうして自由民権運動は、それらにトンボ返りしてしまうのか。どうして部落差別はなくならないのか。今日の排外主義が、朝鮮・中国に集中し、西欧諸国に向かわないのはなぜか。日本では近代100年をへて、なお西欧流の民主主義が根づかないのはなぜか。等々、解明し得なていないことがいろいろとある。

 たまたま、偽書か真書かで大論争があった『東流日外三郡志(つがるそとさんぐんし)』についての両説と『日本の偽書』(文春新書)という偽書説に立つがその議論の外にある人の本にざっと目を通した。真書説に立つのは、邪馬台国九州説を唱えた古田武彦氏で、偽書説に立つのは、雑誌『邪馬台国』編集長の安本氏である。偽書派には谷川健一氏も加わっている。大雑把に言うと、偽書派の決め手は筆跡鑑定で、真書派は、それが写本で原本があるという反論を行なっている。『日本の偽書』の筆者は、『東流日外三郡志』には別の原本があり、それが偽書だとしている。入り組んだ難しい話になっているが、古田氏は、現在も真書説を維持しており、それに、中国学者中嶋嶺雄氏も加わっている。近年、中国の元と樺太アイヌの戦闘があったことが着目されたり、津軽十三湊を支配した安東氏(後、秋田氏)の中国や北方交易が盛んであったことが明らかにされてきたり、北方史の見直しが進んでいる。北方諸民族の歴史やシベリア南部、アムール川沿いの地方の歴史とか、それと中国との関係も紹介が進んできた。あるいはオホーツク文化の解明も進んできた。それに、東北学の試みも進められてきていて、いろいろと歴史の見直しが必要になっている。それで、『東流日外三郡志』が偽書かどうかという問題とは別に、そこに示されている歴史観や東北像、北日本像や思想や文化観などの把握と分析ということが必要なのではないかと思われる。偽書かどうかというだけに意識を集中するのは、歴史実証主義的な態度で、逆にそういうイデオロギーにとらわれて足をすくわれるということに気をつけなければならないと思う。

 話が飛ぶが、アフリカのマリでのフランス軍の反政府勢力に対する空爆は、フランスが帝国主義国であるということを明瞭に示している。これは帝国主義的軍事行動以外のなにものでもない。それと、安倍自民党の二世、三世、四世議員ばかりの内閣の姿は、アジア的身分制の露呈というふうに見えるがどうだろう。今インドで連続して起きたことに、カースト制度が関係しているのではないか。アフリカでの旧宗主国=帝国主義国の軍事侵略行動、そして、ルールなき海となった尖閣諸島周辺海域をめぐる日中の軍事衝突の可能性の強まり、等々、きな臭いことが増えてきた。ネグリの『帝国』論ではこういうことはまったく理解できない。帝国主義概念が現実を理解するには欠かせないことがますますはっきりしたと考える。

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