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アルジェリア人質事件

 アルジェリアで発生した人質事件で、1月21日付の以下のような外務省の経過報告が同HPに載っている。

 1月16日23時35分、岸田外務大臣は、アルジェリア外相に対して、「人命最優先での対応を強く申し入れ」(強調、下線は筆者。以下同じ)た。18日には、安倍総理は、アルジェリアの「セラル首相に対して,本件に関し人質の生命を危険にさらす行動を厳に控えるとともに,人質の解放に向け適切な対応をとるよう要請」した。さらに、現地では、「17日23時,城内外務政務官がメデルシ・アルジェリア外相と会談。人命の安全確保が第一であり,人質の生命を危険にさらす行動は即刻中止するよう申入れ。先方は,人命が最優先であることはアルジェリア政府も同様の認識,現地の最新状況は随時提供していく旨応答」したという。それにもかかわらず、アルジェリア政府は軍事オペレーションを強行し、多数の死者を出した。人命最優先を強く申し入れたにもかかわらず、日本人10人を含む多数の死者が出たことに対して、日本政府は、抗議することもなく、テロは許されないことを強調する。アルジェリアのユースフィ・エネルギー大臣と鈴木特使との立ち話が外務省HPに載っているが、それによると、「冒頭,ユースフィ・エネルギー大臣から,今回の事件の犠牲者及び御遺族に対する哀悼の意が改めて表明されました。加えて,今後とも日本とアルジェリアとの協力関係を促進していきたい,また,そのために関連施設の安全強化に努めていく旨述べました」ということである。犠牲者への哀悼の意を表明した後、日本とアルジェリアとの協力関係を促進し、関連施設の安全強化、天然ガスプラントなどの施設の安全を強化するというのである。人命最優先ではなく、施設最優先という意識が、未だ1人の安否の確認が取れてない段階で示されている。それにもかかわらず、安倍政権の今回の人質事件への対応が世論の多数の支持を受けているという世論調査結果が出ているという報道があった。

 人命最優先の要求が実現せず、これだけ多数の人命が失われたにもかかわらず、安倍政権は、軍事オペレーションに走ったアルジェリア政府に対して抗議していない。

 1月27日には、日比谷公園で沖縄からの上京団約140人を含め、4000人(主催者発表)もの人々が集まった。そこに日の丸を掲げた右翼が街宣に集まっていたが、日本会議、在特会ともに、HPで、日本人を含む人質が死亡した事件について一言も触れていない。かれらの愛国心は、対中・対朝鮮半島への差別的な帝国主義意識が基本であって、真の自立を本質とするものではないということは、このことによって明確に暴露された。元々、日本だの日本人などはどうでもいいし、日本という言葉の下で、自己利害(エゴ)を肥大化させているだけの連中なのである。そのことは、産経新聞の主張にも示されている。そこに露骨に現れているのは小っぽけなエゴイズムであり、人命よりもエネルギー優先であり経済利益優先なのである。

 『エゾの歴史』(講談社学術文庫)の著者海保氏は、近代国民国家の成立によって、北方で漁や狩猟や交易を自由に行なっていた北方諸民族の自由が国境によって閉ざされたことを示しつつ、近代はそうした自由を狭めた不自由をもたらしたことを指摘している。また、『日本の近代化と民衆思想』(平凡社ライブラリー)の著者の安丸良夫氏も、民衆が自己統治の原理を民間宗教イデオロギーや民衆道徳の形で確立することができず、上からの近代化の天皇制イデオロギーという虚偽意識に絡めとられてしまい、異常なまでの勤労倫理が内在化されてしまったことを指摘している。しかし、そのように、勤労が幸福へと結実しない現実を「悪の世」とする現世観をもたらしたりもしたことを、安丸氏は、大本教の出口ナオの言葉を引用するなどして、示している。富士講→丸山教にも、そうした現世批判、天皇制イデオロギーの否定という契機が含まれていたが、それらは、中国での太平天国の乱や朝鮮の東学党の乱のようにトータルな宗教形態をとった解放戦争(内戦)にまで発展しなかった。それはなぜなのかということも安丸氏は問題提起している。明治10年前後の世直し一揆の特質がそこに示されているというのだが。産経新聞は、1月22日「産経抄」で、アルジェリア人質事件に際して、「カスバの女」という歌謡曲を思い出させるという程度の低い認識しか示せないという体たらくぶりを示した。どうでもいいようなアルジェリア知識を披歴したにとどまっているのである。それで、産経新聞も、今や支配階級の御用新聞の位置すらない非主流に転落しているということがわかった。

在アルジェリア邦人拘束事件 (我が国の働きかけ) 平成25年1月21日外務省HP

 1月21日(月曜日),現在までの本件に関する我が国の各国に対する働きかけは以下のとおりです。

1 東京等における働きかけ(以下は特筆ない限り日本時間)

(1) 日・アルジェリア外相電話会談(16日23時35分)

 岸田外務大臣から,メデルシ外相に対し,人命最優先での対応を強く申し入れ。

(2) 日・ノルウェー外相電話会談(17日0時30分)

 岸田外務大臣とアイデ外相は,事態を極めて憂慮し,本件行為は断じて許されるものではなく,国際社会が一致して人質解放を呼びかけていく必要性と,関係国間で緊密な連携を行っていくことを確認。

(3) 日英外相電話会談(17日12時30分)

 岸田外務大臣からヘーグ外相に対し,アルジェリア及びノルウェーの外相との電話会談について説明した上で,事態を憂慮しており,こうした行為は断じて許せない旨述べ,英国との緊密な連携を確認。

(4) 日仏外相電話会談(17日17時30分)

岸田外務大臣とファビウス外相は,人命を最優先にして,日仏間で緊密な連携を継続していくことについて認識を共有。

(5) 日英首脳電話会談(17日18時00分)

安倍総理大臣とキャメロン首相は,同日に行われた日英外相電話会談を踏まえ,日本と英国をはじめとする関係国が一致して解決に向けて協力することや緊密な情報交換を行っていくことにつき一致。

(6)日アルジェリア首脳電話会談(18日0時30分)

 安倍総理大臣から,セラル首相に対して,本件に関し人質の生命を危険にさらす行動を厳に控えるとともに,人質の解放に向け適切な対応をとるよう要請。

(7)鈴木副大臣・ケトランジ在京アルジェリア大使会談(18日15時25分)

鈴木外務副大臣から,ケトランジ大使に対して,日本政府として極めて憂慮しており,こうした行為は断じて許すことはできない旨述べつつ,早期解決のためのアルジェリア政府の協力を要請。

(8)日米外相会談(19日3時00分)

岸田外務大臣から,クリントン国務長官に対し,日本としてテロは断じて許容しない旨述べた上で,アルジェリア政府に対して人質の人命を最優先にするよう働きかけを行ってきたことを説明し,事態を大変憂慮している旨言及。クリントン長官からも事態に対する憂慮の表明があり,双方は,今後も情報収集 をはじめ日米間で緊密に連携して対応していくことを確認した。

(9)日英首脳電話会談(19日18時00分)

安倍総理大臣から,キャメロン首相に対し,関係国が引き続き一致して,人命最優先での対応を働きかけていくことが重要と述べ,引き続きの情報提供や側面支援,現地での協力を依頼した。

(10)日ノルウェー首脳電話会談(19日21時25分)

安倍総理大臣から,ストルテンベルグ首相に対し,ノルウェーには,医療サービスの申し出のような現地対応につき協力をお願いする可能性を言及。

(11)日アルジェリア首脳電話会談(20日0時30分)

セラル首相から,人質救出に向け,全ての事は終わった,全てのオペレーションは終了し,全テロリストは降伏した,現在,まだ見つかっていない人質を捜索中である旨言及。  これに対し安倍総理大臣から,我が国としてテロは断じて許容しない,今回の事件は極めて卑劣なものであり,強く非難すべきものである旨言及。  また,安倍総理大臣から,これから現地入りすることになる関係者及び会社関係者に対して便宜の供与並びに通行の安全に関する万全の配慮をお願いする旨言及。これに対してセラル首相からは,あらゆる指示を出して,最大限の協力をするという受け答えがあった。

(12)日仏首脳電話会談(20日18時45分)

安倍総理大臣より,オランド大統領に対し,仏はアルジェリアとの関係が深いところ,引き続きの情報提供や側面支援,現地での協力についてよろしくお願いしたい旨伝えた

2 現地における働きかけ

16日(現地時間)以降,川田駐アルジェリア大使からアルジェリア政府要人に邦人の生命を尊重して,救出を行ってほしい旨協力を累次にわたり要請。

17日23時,城内外務政務官がメデルシ・アルジェリア外相と会談。人命の安全確保が第一であり,人質の生命を危険にさらす行動は即刻中止するよう申入れ。先方は,人命が最優先であることはアルジェリア政府も同様の認識,現地の最新状況は随時提供していく旨応答。 18日19時20分から約1時間,城内外務政務官は関係国(米,英,仏,カナダ,ノルウェー,ルーマニアおよびEU)と共にメデルシ・アルジェリア外相に対して共同の働きかけを実施。城内外務政務官から迅速な情報提供を依頼。各国代表からも迅速な情報提供及び緊密な連携を要請。  メデルシ外相からは,引き続き情報提供に努めたい旨発言。

 0日0時30分,城内外務政務官は現地に到着した川名日揮社長とともに,ユスフィ・エネルギー大臣と会談。城内外務政務官から,未だ安否が確認できていない邦人に関する早急な情報提供を要請した。ユスフィ・エネルギー大臣は,邦人の安否については今後とも情報提供に努めると共に,今後と も最大限の協力を行っていきたい旨応答。

 20日21時46分,城内外務政務官は,ソナトラック社手配のチャーター機により,イナメナスに到着し,ユスフィ・エネルギー大臣とともに,事件現場を視察。

 ◎

 24日午前5時30分頃(現地時間)から20分間にわたり,アルジェ空港において,鈴木総理特使は,城内大臣政務官とともに,同特使一行並びに無事が確認された日本人及び御遺体の見送りに訪れたユースフィ・エネルギー大臣と立ち話を行ったところ,概要は以下のとおりです。

 冒頭,ユースフィ・エネルギー大臣から,今回の事件の犠牲者及び御遺族に対する哀悼の意が改めて表明されました。加えて,今後とも日本とアルジェリアとの協力関係を促進していきたい,また,そのために関連施設の安全強化に努めていく旨述べました。

 これに対し,鈴木総理特使から,今回の極めて卑劣なテロ行為を断固避難する旨述べた上で,今回の訪問をめぐるアルジェリア政府による一連の協力,また,城内大臣政務官がユースフィ・エネルギー大臣とともに外国政府高官として初めて事件現場を訪問し得たことに対し感謝するとともに,未だに安否が判らない日本人1名の安否確認について引き続きアルジェリア政府の最大限の協力を得たい旨要請しました。

 これを受け,ユースフィ・エネルギー大臣からは,依然安否が判らない1名の方の安否確認について,引き続き最大限の努力を行う旨述べました。

アルジェリア人質事件 緊迫の現場…何が起きたのか 産経新聞 1月25日(金)

■「仏英日の5人人質にとれ」/礼拝強要「怖いから従った」  【カイロ=大内清】アルジェリア人質事件で、イスラム過激派武装勢力の計画準備や、天然ガス関連施設襲撃の状況が、現地紙や政府関係者の発言などから次第に明らかになってきた。

 ◆2カ月半前に命令

 現地紙シュルークが治安当局筋の話として伝えたところでは、拘束された武装勢力メンバーは、事件の2カ月半前、首謀者とされる国際テロ組織アルカーイダ系「イスラム・マグレブ諸国のアルカーイダ組織(AQMI)」のベルモフタール元幹部から、「(犯行)計画と命令を受けた」と供述。「フランス人と英国人、日本人の計5人を人質にしリビアへ出国せよ」などと指示されていた。

 また別の報道によると、武装勢力は、カダフィ政権崩壊後の混乱が続くリビア西部の民兵組織から武器・弾薬を調達、カラシニコフ銃は1丁900リビアデイナール(約6万4千円)、ロケット弾は1200リビアデイナール(約8万6千円)だったという。

 犯行グループは、同国で入手した車をアルジェリア治安機関の車両に偽装しリビアから密入国。武装勢力はもともと「マリ北部から来た」(アルジェリアのセラル首相)とされるが、周辺国にもアジトや支援網を確保していたことが裏付けられた形だ。

 襲撃は16日午前5時半ごろ、2グループに分かれて始まった。第1グループは居住区を襲い、最初にプラント建設大手「日揮」の駐在員5人を射殺するなどして居住区を制圧、信号弾で仲間に合図を送った。外国人やアルジェリア人は広場に集められ拘束された。

 第2グループはガス生産区域に向かい、開門を拒否した地元警備員を殺害し侵入した。このグループの一部は、同区域到着前に車が故障したため、施設から空港に向かうバスに目標を変更、この襲撃でバスに乗っていた日本人3人も殺害されたとみられる。

◆元運転手が案内?

 武装勢力は治安機関が「ベンシェネブ」と呼ぶ男の指揮下にあり、そのかたわらにはカナダ国籍の男が通訳として従っていた。ベンシェネブらは居住区を襲ったグループにいたとみられ、襲撃後ほどなくして始まった当局との交渉では、居住区内のスピーカーで当局とのやり取りを人質らに聞かせたという。

 一方、内通者の存在が指摘される中、武装勢力側にも施設をよく知る人間がいた可能性が出てきた。

 現地報道によると、メンバーの一人で「マンジル」と呼ばれていた男が、施設を運営する英メジャー(国際石油資本)BPで運転手として働いていたことが新たに判明。生死は不明だが、案内役だった可能性が高い。

 居住区で武装勢力は、アルジェリア人にはある程度の行動の自由を与えていたようだ。イスラム教の礼拝時間にはアルジェリア人全員に礼拝をするよう強要し、あるアルジェリア人労働者はシュルーク紙に「怖いから従った」と話した。

 ◆爆撃で指揮官死亡

 翌17日、ベンシェネブらは人質とともに車4~5台に分乗し、別グループと合流するためガス生産区域への移動を始めた。アルジェリア軍はヘリで車列を爆撃、ベンシェネブはこの攻撃で死亡した。生存した人質は2人だけだったという。

生産区域では日本人1人を含む外国人らが、爆発物を巻き付けられた状態で車に押し込められていた。  

 18日、生産区域で大きな爆発が起きた。正確な時間は不明ながら、武装勢力が設備を破壊しアルジェリア経済に打撃を与えようとしたものとみられる。指揮官を失って交渉が進まないことにいらだっていた可能性もある。これに前後し、アルジェリア軍との銃撃戦が始まった。残る外国人の人質7人が殺害されたのもこのころだったとみられる。

 戦闘ではアルジェリア軍が武装勢力を圧倒。投降する者も現れた。19日早朝、陸軍が生産区域全体を制圧、当局はその後、作戦終了を宣言した。

産経抄1月22日

 「ここは地の果てアルジェリア どうせカスバの夜に咲く」。往年のヒット曲「カスバの女」のおかげだろう。遠く離れているわりには、アルジェリアには親近感がある。

  ▼実は日本との結びつきは意外に強い。1962年の独立以来、豊富な資源に目を付けた日本企業が続々と進出してきた。なかでも存在感を示してきたのが、プ ラント建設大手の日揮だ。80年には世界でも有数の規模を誇る天然ガスプラントを、5年がかりで完成させている。ピーク時には2500人もの日本人がいた。

 ▼当時の駐在社員によると、真夏には50度を超えるサハラ砂漠の気候以上につらかったのが、孤独感だった。「慰めを与えてくれたのは家族からの手紙だったが、日本から来るのに2~3週間かかった。郵便箱に自分宛の手紙を見つけると胸のポケットに差し、満足気にキャンプの中を歩いたものだった」(『アルジェリアを知るための62章』明石書店)。

 ▼30年以上たって、通信事情は格段によくなっているはずだ。それでも、イナメナスの天然ガス関連施設で働く人たちには、日本では想像もできないような苦労がある。その一つだった、イスラム武装勢力による襲撃の恐れが、現実となってしまった。

 ▼海外メディアが次々に報じる「邦人死亡」の情報を政府はなかなか確認できなかった。家族の不安は限界に達していたはずだ。英米両国は人質救出のために、アルジェリア政府の同意さえあれば、特殊部隊を投入する構えだった。

 ▼それにひきかえ日本では、「海外での武力行使」を禁じる憲法解釈への配慮から、自衛隊派遣の検討さえ行えない。海外の過酷な環境で働く人たちに対して、あまりに冷たすぎるのではないか。

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